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朗報 俺、魔法使えました。

 結論から言うと、この世界に医学という学問は存在しなかった。

しかし、体系立った医療がないだけで、庶民が熱さましに煎じる草や湿布などの民間療法は存在するらしい。


 そして驚くべきことに、この世界には魔法があり、病気や怪我は「治癒魔法」で治るという。


だが治癒魔法を使える魔法士は数が少ない。

さらに、彼らに治療を依頼するには莫大な金とコネが必要となる。


つまり、庶民はまともな医療を受けられない。


 しかし幸いなことに、我が家の書斎(というより市中の図書館くらい広かった)には魔法関連の書籍が山ほどあり、俺はすぐさま書斎に籠もり、片っ端から目を通した。


 相当な量の魔導書や古文書まで読み漁ったが、結局、治癒魔法に関する記述はたった三行程度しかない。


 創傷治癒に関する呪文の一節を見つけたときは、思わずガッツポーズをしたくらいだ。


しかし、ここでまた大きな問題がひとつ。


そもそも――

俺って魔法が使えるのか?


 そこで初級魔法の導入編という書籍を見つけ、いくつか簡単な魔法を試してみたが、あっさり成功してしまった。貴族は魔力が多いらしく、カーネリア家も魔法に秀でているらしい。


 どうやらジゼルも、ただ椅子に座っていられない性格だっただけで、やれば出来たのだろう。


うん、これで準備は整った。


 花に水をやる魔法や、灯りを灯す魔法を難なく使えることを確認したあと、俺はおもむろにシーツの端を破って自分の口に猿轡をかませた。


これからやるのは、少々過激な実験だ。

誰かに見つかるのはまずい。


ズボンをまくってジゼルの人形のように白い太ももを見つめる。

シミひとつない綺麗な肌。

鼠蹊部付近には太い血管が走っているから、やるなら太腿の外側だな。


俺は思い切り、皮膚にナイフを突き立てた。


「…………ぃぐ、~~ッ!!」


い、痛い……!


 溢れ出る血液をシーツで押さえながら、猿轡を片手で外し、俺は先ほど見つけた長ったらしい治癒の呪文を唱えた。


すると――


みるみるうちに血が止まり、血管が再生していく。

続いて筋肉、筋膜、皮下組織、真皮、上皮組織……。


 あっという間に塞がった傷は、完全に元通りとはいかず、歪な再生痕となりケロイドのように盛り上がっていた。


ジゼルの身体に傷を残して申し訳ないが、今は俺の身体だし。

誰に見せる予定もないから問題ない。


しかし――


なんとも驚くべき光景だった。


流れた血液は体内に戻るわけではないらしい。

つまり、


止血 → 組織再生 → 創傷閉鎖


 この一連のプロセスを、スローモーションのように観察することができた。


 もっとキラキラしたエフェクトでもかかって一瞬で元通りになるのかと思っていたが、実際には正常組織が順序を追って再生されていく過程がはっきり確認できる。


つまり、この魔法を分解すると、


血小板とフィブリンによる血液凝固で出血を止め

血管の再生を異常な速度で促進し

組織を順序通りに再構築していく


――ということだ。


これは、面白い。


しかも使える!


この魔法を解析し、各要素だけを抽出できれば、かなり便利じゃないか?


例えば――

止血だけ行うこともできる。


あるいは、血管を新しく再生させることも可能だ。


逆に考えればどうだ?


血管に詰まった血栓を溶かせば、臓器の虚血を改善できる。

脳梗塞や心筋梗塞の血栓溶解療法だ!


楽しくなってきた!!


俺はさっそく机の上にあった新品同然の紙とペンをひっつかみ、作業を始めた。


十五歳の若者の身体は疲れを知らない。

眼精疲労で視界がぼやけることもなければ、胃痛も肩こりもない。


――最高だ。


俺は水を得た魚のように、血だらけのシーツを蹴飛ばしながら研究に没頭した。


そしてそこから、怒涛の勢いで数々の魔法理論と医療術式を生み出していくことになる。


だがその研究が、やがて帝国を巻き込む騒動へ発展することを――


このときの俺は、まだ想像もしていなかった。


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