性格最悪、頭も悪い。可愛いのは顔だけ。
あぁ親愛なる母さん。
脳出血で早逝した親父に泣き言ひとつ言わず、シングルマザーで息子を育てる苦労をさせておきながら、親より先に逝くという最大の親不孝をしでかした馬鹿息子をお許しください。
しかし今の俺、ジゼル・カーネリアの両親は健在だ。
カーネリア家当主――
表の顔は帝国有数の名門公爵家の当主にして宰相。
そして裏では横領、裏金、違法賭博、密輸、闇商売に手を染め、裏社会と犯罪組織を牛耳る悪徳貴族である。
対して母親はというと、先々代の皇帝の妹の曾孫にあたるらしく、なんと皇族の血を引いているらしい。(つまり俺も皇族の血族ってことか?)
悪の華とは思えぬほど、ほんわかした女性で、いつ見ても茶会だ趣味の刺繍会だと楽しそうに過ごしている。夫の悪行の数々を知っているとは思えない。
よもや親兄弟でも人質に取られて嫁に来たのではないかと、心配になるレベルである。
そして俺には8歳上の兄がひとりいるらしい。
名前は ルシアン・カーネリア。
悪の親玉の後継らしく、第一皇子の補佐官の傍らすでに裏社会の仕事を任されているとかなんとか。
どうやら弟の俺には興味がないらしく、現ジゼルの記憶の中でも、最低限の挨拶程度で会話の記憶はほとんどない。
そして現在の俺、ジゼル・カーネリア。
ジゼルって普通は女性の名前だよな?
だが女の子と見間違えるくらい、俺の容姿は可愛い。
先日十五歳になったばかりのぴちぴちの肌は透き通るように白く、少しウェーブがかった天然ものの金髪に、アメジスト色の瞳はまつ毛がばさばさだ。
純日本人だった相沢直の俺とは似ても似つかない美少年である。
だが性格は最悪らしい。
酷い癇癪持ちな上に頭も悪く、怠け癖があってなにをやっても続かない。使用人をいじめるのが趣味。
その底意地の悪さに何人もの教育係がさじを投げたとか。
つまり十五歳のジゼル少年は、その凄まじい美貌をもってしても救えない。嫌われ者の性悪クソガキというわけだった。
……まあ俺にとってはどうでもいいことだが。
肝心なのは、この家は高位貴族家。
十分な資産がある。超金持ち。
それでもって俺はその家の次男坊。役立たずの穀潰し、性格最悪の人格破綻者。いまさら誰にも期待されていない。その証拠に使用人は常に遠巻きに俺を監視しているだけだし、記憶を取り戻した際に気を失って1週間寝込んだっていうのに、家族は誰も様子を見にこない。
つまりどういうことかって?
仕事もない。義務もない。
指図してくる家族もいない。
今の俺は――一日中、好きなことだけしていていいってことだ!!
しかも過去のジゼルは、毎月とんでもない額の小遣いを浪費していたらしい。
記憶が戻る前のジゼルが使っていた金=今の俺の金。
……つまり。
研究費、使い放題ってことだよな?
そりゃ過去のジゼルがいじめた人々には申し訳ないとは思う。
だが相沢直の記憶を取り戻してからは、まるで他人の人生を見ているようで、いまいち実感がない。
このツケはいつか払うことになるだろう。
だが今はどうでもいい。
研究し放題!!!
最高。最っっっ高じゃないか。
十五歳、健康な若い体。
潤沢な資金。
実家が違法組織とズブズブの関係であることなど、どうでもよくなるような、魅力的な研究環境だ。
しかし。ひとつだけ問題が残っている。
この世界に――
医学はあるのか?




