執事長レナードの独白
カーネリア家の執事長、レナード・ダッケンネルは頭を抱えていた。
ジゼル様に優秀な家庭教師を雇う許可を得た。明日にでも皇都のアカデミーに手紙を出し、最高の教師を手配する予定だ。
しかし……
「カイル・ペンドラゴンから来た宝飾品はすべて廃棄しろ。ジゼルには俺が新しく買い直す」
「……どうかお考え直しください、ルシアン様」
第一皇子カイラス・エルディオン・アルヴェイン。ルシアンより二歳年上、つまりジゼルとは十歳も年が離れていることになる。
最初にカイル・ペンドラゴンの名前で手紙が届いたときは目を疑った。カーネリア家の情報網から、皇子が偽名を使用して、お忍びで学者や研究者と交流を図ろうとしていることは聞いていたからだ。
ジゼル様は天才だ。当主様の言うとおり、彼のやっていることはいずれ帝国の医療に大きな革命をもたらすことになる。屋敷に勤める使用人たちもうすうす感じているのだろう。最近は自ら進んでジゼル様の役に立とうと動いている。
第一皇子は大変優秀で目聡い方だと聞く。ジゼル様が発表した論文を読み、その将来性と価値をいち早く見抜いたのだろう。
過去の横暴なふるまいが原因とはいえ、ご両親からも放任され、まともな貴族教育も受けていないジゼル様の行く末は、好色な貴族の第二夫人しかないと聞かされていたが、降って湧いた一筋の光に年甲斐もなく胸が躍った。このままジゼル様が皇子に評価されれば、いずれは研究者として身を立て自立される道も見えてくる。
しかし、事態は思わぬ方向へと進んでいった。皇子の手紙は日増しに熱を帯び、ジゼル様への甘い言葉が書き連ねられ、最近は情報交換というより情熱的なラブレターと化している。
贈り物は助言に対する返礼品から独占欲の滲む品となり、皇子の好みが透けて見えるような衣服や宝飾品が日を置かず送られるようになった。
……おそらく、皇子はジゼル様の年齢を勘違いしている。ルシアン様の弟とは知っているが、八歳も年が離れているとは知らないのだろう。高級な酒とともに『遠征先で見つけた逸品だ。俺と同じ夜空を見上げて飲んでくれ』というメッセージカードが添えられてきたことで、疑念は確信に変わった(もちろん、ジゼル様には渡さず、金庫にしまってある)。
だが、レナードはそんなことは些細な問題だと考えていた。第一皇子のカイラスは容姿端麗、聡明で社交的、宮廷内での評価も高い。まだ二十五歳と若年ながら、政治の手腕にも長け、彼が史上稀にみる名君になることは確実視されているほどだ。
ジゼル様にこれほどふさわしい相手がいるだろうか?
「レナード! 聞いているのか!? ジゼルが着ていたあの簡素な白い服はなんだ? 普段着ならもっと見栄えのするものを用意しろ」
「……ルシアン様、あれは“ハクイ”といって、作業用の衣服としてジゼル様が考案されたものにございます」
ジゼルが依頼してカイラスに仕立ててもらったことは、あえて黙っておく。
「……そうか、それなら仕方がないが、作業以外の時間はもっと優美な服を着せた方がいいだろう。皇都の仕立て屋を呼んで、新しい衣装を作らせろ」
「かしこまりました」
ジゼル様は起きてから寝るまで自室にいるから不要だと言われるだろうが、彼をもっと美しく着飾らせたいと思うのはレナードも同じなので、異論はなかった。




