皇子様の誕生日会に招待されたけど行きたくない
俺と愉快な研究者仲間達との文通は続き、もちろんカイルとの手紙のやり取りも続いた。
スカラベ博士から『血吸い蜂』のサンプルが届いたり、エイデンから精巧に描かれた人体解剖図や本物の骨格標本が届いて侍女たちを卒倒させたりと、いろいろあったが——カイルからは相変わらず医療政策の相談や、豪華な贈り物の数々が届いていた。
これはちょっと怖い話だが、俺のサイズぴったりにあつらえられたドレスローブが贈られてきたこともある。
どういうことだ?
なぜ俺の身長や腕の長さを知っている?
そんでレナードも、なんで満足そうなんだ?
いい加減俺も開き直って、「服のサイズを知っているなら、汚れてもいい作業用の白衣が欲しい」と返事を書いた。
すると次の日には仕立て屋がやって来て、数日後にはロング丈の白衣が何着分も届いた。
上質な生地で仕立てられた白衣は動きやすく、薬液や血液の汚れも弾いてくれる。前世でも白衣は皮膚に同化するほど着慣れていたので、すごくしっくりくる。
そんな楽しい研究生活の最中——
とうとう俺にも、貴族の“責務”ってやつがやってきた。
「第一皇子の誕生会?」
「そうです。ジゼル様をぜひご招待したいとのことです」
「……それって断れるやつ?」
「…………」
あ、これダメなやつだ。
お父様も兄上(会ったことない)も皇室勤務だもんな。
兄上に至っては第一皇子の側近らしいし。
「……行きたくない。面倒臭い。成分解析魔法の研究もいいところだし。血吸い蜂の世話もあるし」
一応言ってみる。
ついでに首を少しだけ傾けて、子犬っぽくレナードの顔を見上げてみる。俺の愛らしい顔を最大限に利用した、おねだり用の表情だ。
「いけません、ジゼル様」
「なんでだよ!! 言うこと聞いてよ!!」
「これは決定事項です」
ジタバタ暴れて、ジゼルっぽく癇癪など起こしてみるが、レナードはどこ吹く風だった。
最近は周囲の使用人たちも、俺が以前のジゼルと違って大人しいことに慣れてきたのか、ずいぶん気安く接してくる。
何度も寝落ちして介抱されていたので、俺としてもあまり強く出られないのだ。
「ねぇ、聞いて? 俺って貴族の友達がいないから、行っても悲しい気持ちになるかも。顔出しして挨拶したらすぐ帰って来てもいい?」
うるうる。
俺は見た目こそ美少年だが、中身は陰キャぼっちのおじさんだ。貴族の社交なんて無理。絶対無理だよぉ。
せっかく可愛くお願いしているのに、レナードは完全に無視して侍女たちと話し始めた。
「ようやく、あのネックレスの出番ですね」
「ねぇ! 俺の話聞いてよ!」
「合わせるお召し物はいかがいたしましょう?」
「ねぇ聞いてってば」
「新しく仕立てた方がよろしいでしょうね。以前のジゼル様がお召しになっていた衣装は派手すぎます」
「ねぇ!!」
「その通りです。今のジゼル様にふさわしく、上品で落ち着いた装いでなくては」
「おい!!」
完全に無視された。
俺の意思など最初から存在しないかのように、侍女たちは次々と衣装の話を進めていく。
「髪は軽く巻きましょうか」
「いえ、ストレートのほうが知的に見えます」
「カフスボタンはどうしましょう」
「リボンの色は?」
「皇子の瞳の色に合わせましょう」
「それは素敵ですね!」
「ねぇってば!! 聞いてよ!!!!」
だが俺の叫びは誰にも届かない。えーん。
どうやら第一皇子の誕生会に行くことは、すでに決定事項らしい。
そしてこの誕生会で、
俺はとんでもない厄介事に巻き込まれることになる。




