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誘拐された勇者  作者: 常に移動する点P


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3/3

第3話・ギリアムの考察

 イリオスと出会ったのは、夏のウッドバルト王国のはずれ。そこに俺たちの村があった。狩猟と農耕、バランスよく営むドワーフ自治の村―ガルフ、イリオスが滅ぼしたと言ってもいい。


 ドワーフと人間のハーフとして、産まれた俺は比較的差別されることはなかった。ドワーフの母、人間の父という一般的なハーフドワーフとしては、逆だ。たいていは父方がドワーフなのだ。俺は人間の父から戦士としての生き方、身の処し方を学ばねばならなかった。だが、それが功を奏したのだ。


 父はかつて勇者だった。ガルフ村を魔物から救った英雄だ。ウッドバルト国王から勇者の剣を賜った正真正銘の勇者なのだ。

 イリオスが俺たちの村に来た時、シュレーとナロウを連れていた。ナロウはまだ十歳にも満たなかったと思う。

 ナロウが高熱を出したせいで、どこか休める場所が欲しいという申し出だった。ガルフ村には宿屋はない。ウッドバルト王国の城下町までは10キロ近く離れている。よそ者の人間たち、しかも謎の高熱。だれもが敬遠するなか、父は空き部屋をイリオスたちに貸した。それは同じ人間だからというだけではなく、ただ困っている人を助けたい、「平和を愛する」ために、という信念からくるものだった。


 ナロウの熱が下がった頃、村に魔物が現れた。魔毒のスレイディーと恐れられている巨大な蜘蛛の魔物だ。

 父は勇者の剣を納屋から引っ張り出した。手入れが行き届いていないのは、平和の証だが、スレイディーを切り刻んだ時、死角から触手が父を襲った。産卵したのだ。戦闘中に産卵し、孵化し、成長した。子牛ぐらいのサイズ、それが何百も現れたのだ。

 運悪く心臓を触手が貫き、父は絶命した。最後の言葉もないくらいにあっけなかった。母がドワーフたちを集めて、先陣を切って戦いに挑むも、半農半狩のような生活に慣れ切ったドワーフが戦闘勘を取り戻しきれないのは容易にわかる。


 ガルフ村はスレイディーの子どもたちに蹂躙され、奴らは毒をまき散らし、土地を殺した。ドワーフたちは女神との契約を忌み嫌ってきた過去から、「回復魔法」が身近にない。それゆえ、ナロウが懸命に唱えた解毒・回復魔法は耐性不足で、急激に細胞が分裂し、極度の老化現象が起きてしまった。そのせいで、母は死んだ。良かれと思ってのことだ、ナロウを責める者はいなかった。


 シュレーの魔法で善戦していたが、肝心のイリオスはダガー2本というお粗末な装備だった。超接近戦と毒は相性が悪い。

 俺はイリオスに父が握っていた刃こぼれだらけの勇者の剣を託した。イリオスは水を得た魚の如く、剣に解毒の魔法をエンチャントし子スレイディーたちを二百体は始末した。毒をもって、解毒で制すといったところか。


 倒したはずの親スレイディーが古代エルフ語を話した。古代エルフ語は、エルフ統治時代の言語であり、全ての種族が用いた公用語だ。ドワーフたちは古代エルフ語を戦闘通信用の隠語として学ぶ。


「イリオスガ…ワレワレヲ…コノ地ヘ、誘イ込ンダ」


 そんなことを言っているように聞こえた。

 イリオスがガルフ村に、スレイディーを誘いこんだというのはどういうことだ。俺は、父の剣を鞘に納めるイリオスに向かって行った。顔が強張るのがわかる。

 たった数時間で、故郷が滅ぼされたのだ。もし、スレイディーの言う通り、イリオスがこの村に誘い込んだのなら。戦いに不慣れになったドワーフの村を戦闘地として選んだのなら。


 スレイディーが最後にポツリと

「アノ剣ヲ手ニイレルタメニトハ、アイツコソ魔物」


 スレイディーは息絶えた。俺以外ドワーフの血を引くものは一人として生きていない。人間であるイリオスたちには、スレイディーの声は言葉として認識しようもない。この事実は俺だけが知っているということだ。


 わざわざ、スレイディーが死ぬ間際にこんなことを言う意味があるのか? 考えたがあれは言葉というよりも、思念が言語化されたのだろう。魔物が言語を発する時は、たいてい自ら利するを目的に成す。つまり、騙すため。だがどうだ、スレイディーは死の間際だった。嘘をつく、騙す必要があるだろうか。


 万一の残された我が子のためか、それにしては、古代エルフ語を理解できるものがいようもないはず、たまたま俺が理解できただけで、誰をだますつもりなのか。


 明確な騙す相手がそこにいないのにもかかわらず、そんな騙す言葉を発する必要があるだろう。俺とスレイディーは三メートルは離れている。ハーフドワーフは、人間はもとより、ドワーフよりも“耳が効く”。あの蜘蛛野郎がそんな予備知識あったとは思えない、知性すら感じないのだから。あれは、本能で生きる生の執着体だ。


 イリオスが仕組んだのか? 父の勇者の剣を手に入れるための茶番だったとしたら?

 そのために、父も母も、村の仲間たちも、肥えるガルフの大地も。すべて、あの古びた剣のためにならば、俺はイリオスを許せない。だが、どうする? 戦って勝てる相手じゃない。


 俺は、イリオスから、「魔王を倒すために、前衛が不足している。戦士としてパーティーに加わらないか」

 と打診された。身よりもない、仲間も住む土地も何もない俺が断る理由はない。イリオスと行動を共にし、いつか、この卑怯者を俺が討ち倒す。


 その志を持ったまま、行きがかり上魔王を倒したわけだが、俺とイリオスとの強さの差は埋まらないままだった。当たり前だ、同じように闘い続けたわけだから。技量が埋まるわけがない。しかも、東の魔女と一夜を共にしてからのイリオスは、格段に強くなった。

 前衛補佐のような役割だった勇者イリオスと立ち場が逆転した。勇者の剣を右腰に携え、基本はイリオスの剣で魔物を倒していった。時に二刀流での戦闘もあったが、稀だ。


 あれほど欲したはずの勇者の剣に見切りをつけたのか。その理由を問いただしたかったが、今目の前にあるのはイリオスではなく、奴の剣のみ。だが、父の剣・勇者の剣はどこに行ったのか?


 イリオスへの恨みが和解したと、シュレーもナロウも思っている。かつての仇とでも思っているのだろう。そんなに簡単に雪解けするわけがない。二人はどこかズレている。


 イリオスが誘拐されたという前提で、俺・シュレー・ナロウのだれかが首謀者とするならば、最重要容疑者は俺だ。


 間接的に両親や仲間、村を滅ぼされたこと。父の剣の所有権が結果的・なりゆきで、イリオスに移ったこと。そしてその勇者の剣はここにはない。俺がイリオスを誘拐して、父の形見として勇者の剣を取り返したのだと思われても仕方ない。


 イリオス誘拐の動機は、俺にあると誰もが思うだろう。だが、俺はやってない。


 あんなに強いヤツを、誘拐できるわけがない。シュレーのイリオスへの一途な愛はわかるが、誘拐と言う手を取るだろうか。それなら、一緒に居続けたいはずだ。こんなイリオスの剣を送りつけるなどの、手の込んだことはしないだろう。実際、シュレーは面倒くさがりだ。

 ナロウほど溺愛されていれば、その隙も生まれるのかもしれないが。美しい女性へと成長した。

 そういえば随分前から疑問に思っていた。


 イリオスとナロウの出会いは、シュレーを助けた時のことだと聞いた。シュレーを襲うコボルドたちの人質になっていたのがナロウだとも。


 コボルドが子どもを人質に?アイツらは平たく言うと、「鬼」だ。鬼は、人間の子どもをすぐ喰う。人質にして交渉したり、身の保全のための保証として使う、なんてことができるわけがない。たとえリーダー格であってもだ。父からよく聞かされた。


 それにだ、根本的にの話になるが、この世界のコボルドは、父ら元勇者パーティーが殲滅した。物理的に殺すというわけだけでなく、コボルド特有の抗体に効く、感染症の魔法・いわゆる「死の魔法」を広めたのだ。その魔法の術者はわからない。だから、コボルドがにさらわれたり、戦ったりなんてできっこないのだ。だったら、イリオスは何と戦っていたのだ。ナロウが真実を知っているはずだ。あいつは、抜け目がない。


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