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第4話

 本拠地の危機に真っ先に駆けつけてきたのは、機動力に優れたワイバーン騎兵だった。おそらく戦場を縦断してきたのだろう。高速度で突っ込んできた騎兵に、まずはロックが武器を構える。

 ロックの武器は対空ミサイルやドローンに対処するための散弾銃と、対空戦を想定したミサイルランチャーだ。発射後視野角60度以内の敵を自動ロックオンしてくれる優れもので、弾数が少ないしコストも重いが、手動ロックオン式より圧倒的に短い操作時間が素早い対応を可能にしてくれる。

 これで撃ち落とせれば楽だったがそうもいかない。ミサイルは航空戦力にとって最大の脅威なので、ほとんどがフレアを所持している。ワイバーン騎兵から赤色の煙が飛び出し、追いかけたミサイルはあられも無い方向へ。

 ただ、対処のためにワイバーンの操作が疎かになった隙をパールが逃さない。放たれる紫の閃光。重力の影響を受けず、砲弾並みの速度で飛ぶカオスエクスプロージョンは対空戦闘でも有用だ。威力も、ワイバーン程度なら一撃で墜とす。

「ナイスキル」

「ひとまず空の脅威は去ったわね」

「けど今度は地上から来たぞ」

 本拠地は現在進行形でロックたちが攻めているが、後方のリスポーン地点は近い。前線で倒されたプレイヤーが復帰してきたのだ。情報を得ず本拠地が攻められているとだけ知って本拠地に来た間抜けもいるが、対空の圧力はNPC戦力の損耗を補って余りある。

 特に厄介な誘導ミサイルを避けるため、一気に高度を落とす。撃墜用のショットガンを持っているが、飛んでくる攻撃が多すぎる。手数を割けば守り切れる数でなく、撃ち落とすのは最終防衛手段となる。

 地上スレスレを狙って降下速度を抑え、滑るように飛行。そのまま今度は上昇へと転じる。低空ならミサイルの誘導もかわしやすいが、下がると銃弾で直接狙われるリスクもある。なのでロックは水平方向よりもむしろ上下に激しく動き、敵に攻撃の選択肢を絞らせない。当然、動き回るのだからロックからの攻撃も安定せず、ブレスはまともに使えていない。

 だが、そんな状況でもパールは当てる。2秒に1回。ほぼアバタースペックの限界で連射しながら、しかも脅威度の高い敵を選別して撃ち抜くのだ。いくらカオスエクスプロージョンが範囲攻撃と言えど、真似できる人間をロックは他に知らない。

「随分と集まってきたなっ!」

「あったまってきたんじゃない?」

 このまま行けば勝ちの盤面から本拠地を襲撃され、暴れ回られているのだ。阻止しようとプレイヤーは集まるし、中にはパールに複数回爆撃されて、何が何でも墜とすと躍起になっているものもいるだろう。対空攻撃の数は確実に増え、危険な場面が増える。応戦はできてもそれが精一杯。マザークリスタルを狙う余裕はない。

 だけどそれでいい。プレイヤーは50対50の同数で変わらない。ロックたちを狙うプレイヤーが増えるほど、ここ以外が薄くなる。

 一瞬だけマップを見れば、敵側の最前線はすでにボロボロになっているのがわかった。通知を見逃していたがいつのまにかB拠点が陥落しており、劣勢だった南側も中央近くまで押し戻している。残り時間は2分弱。C、D、Eのうちひとつでも落とせれば同点。この盤面のまま延長線に入れれば勝ちは硬い。本拠地で暴れるロックたちに目がいっている敵プレイヤーの多くは、この危機に気づいてもいないだろう。

 そしてここで、状況を後押しする援軍の到着。生き残っていた味方ワイバーン騎兵が姿を見せる。もともと空での優勢はこちらにあった。最前線が塹壕戦に入ったことで、より活躍しやすい本拠地襲撃に回ったのだ。

 抑えきれていなかった航空戦力の追加。敵側の対応力がオーバーフローするのは当たり前のことだ。

「これでだいぶやりやすくなったな」

 攻撃の矛先が分散したことでロックもいくらか楽になる。今のうちに消費した弾をリロード。あまり派手に動き回ると味方の邪魔になりかねないため、細かな回避に切り替え、できた余裕をブレスの追加攻撃に回す。

 そうして本拠地の戦いでも優勢を確保したところで、D拠点とE拠点の陥落通知がほぼ同時に送られてきた。これで4対3。まるで少し前に起こったことの焼き増しのような形で、再び点数が逆転する。

 だけどまだ、試合は終わらない。

 残り時間、約1分。

「ここまできたら、完璧な勝ちを狙いたいなっ!」

 それに、ほぼ負けの盤面をここまで捲ったのだ。逆にやり返される可能性も、まったくゼロではない。

 当初は全力で避けなければ簡単に墜とされそうだった対空攻撃も、勢いは大きく落ちている。味方が増えて攻撃が分散したこともあるが、攻撃能力自体が落ちてきたのだ。

 いくらリスポーン地点が本拠地のすぐ後ろにあると言っても、復活の待ち時間と移動時間を合わせれば20秒弱はかかる。加えてスコアを払って強力な兵士を使うシステム上、倒されれば高い戦闘力を維持できない。もともと消費したスコアの2割も回収できれば御の字という調整だし、一方的に倒されればわずかな加算もない。リソースをどこで吐き出すのかというゲーム性なのだ。そして敵は、すでに息切れしている。

 その意味では、敵の大攻勢をギリギリで凌ぎ切ったものたちこそが今回のMVPなのかもしれない。

 自身に飛んでくる攻撃を見極めながら、ロックは高度を落とし、マザークリスタルを守る敵本拠地の中枢へと飛び込む。室内ゆえに空から直接狙うことはできなかったが、車両の出入りも想定された巨大な入り口はドラゴンでも通行可能。突っ込む際に大量のガラスが砕けたものの、その程度で竜の鱗は傷つかない。突入とともに減速し、入り口に陣取る形で停止する。激突を避けながら室内に飛び込むアクロバット。ただし、観客は犠牲者だ。

「毎回思うんだけど、なんで重要施設が入り口入ってすぐのとこにあるんだろ?」

「そりゃまあ、ゲームバランスの都合じゃね」

 なんて呑気な会話とは裏腹に、ブレスが室内を薙ぎ払い、紫の魔法がマザークリスタルを襲う。低空で停止した今は撃墜する絶好の機会であるものの、実行できるかどうかは別の話。澄んだ高音が何度となく響くが、相手にはすでに止められるだけの力がない。やがてマザークリスタルはひび割れ、砕け散る。試合時間19分52秒。タイムアップを目前にして、ノックアウトでの完全決着となった。


これにて完結です。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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