第3話
南側2拠点の陥落が通知されたことで、周囲の味方にも動揺が走るのがわかった。南部が崩壊したということは、敵軍が本拠地に容易に攻め込めるようになったということだ。そもそもノックアウトをもらわなくともクリスタルの破壊数で一気に突き放され、勝利からは大きく遠かった。
だが状況の悪化に周りが浮き足立つ中で、ロックは打開策を見出していた。前方で他の味方を狙う敵を撃破し、スコア獲得。それでようやく、必要分の数字が貯まったのだ。
スコアの使い道は強力な兵士での出撃が援軍の要塞。そのどちらも事前に構築をカスタムしておくものであり、言い換えれば構築次第で必要なコストと強さに差ができる。そしてロックとパールの構築は晩成ビルドと呼ばれる、大量のスコアを終盤に投じて極めて強力な兵士を投入するものだ。そのためにここまでスコアの消費を避けて戦い続けてきたが、なんとか間に合ったようだ。
ワイバーンを景気良く撃ち落としていたパールの必要スコアはすでに貯まっている。
こうなると1秒でも早く再出撃した方がいい。パールの情報を共有し、B拠点への強引な攻撃を実行する。前線近くの遮蔽裏に陣取り、フルオートで撃ちまくる。もちろんそんなことをすればやたら目立つし、動かないのだからいい的だ。拠点を守るプレイヤーの狙撃を受け、視界が赤に染まる。ただそれまでに好き放題攻撃してNPCを5人は持っていけたので、お土産としては十分だろう。
再出撃の場所として選んだのはA拠点。待ち時間の間に確認したところ、本拠地にはかなりの味方が集まり、敵の攻勢は退けられたようだ。今も敵は本拠地を落とそうと攻め続けているが、前線拠点との中間あたりで止まっている。逆にB拠点の方は優勢だが最後のひと押しができず攻めあぐねている感じ。召喚されたNPCで拠点が要塞化されているせいだ。
戦況を分析していると待機時間が明けてリスポーンする。目線は高く、周りにある平屋の建物の屋根が見える。下には黒く光沢のある鱗。そこに取り付けられた鞍の上に、ロックは跨っていた。
ワイバーンではない。ワイバーンよりも強力な重装甲を持ち、その他あらゆる面で高い性能を発揮するドラゴンだ。そしてドラゴンには特徴がもうひとつ。ワイバーンよりも優れた飛行能力を持っているドラゴンは、鞍を2人乗り用にカスタマイズできる。その間後部座席に、ゴーグルをつけたパールが乗り込んできた。
「準備は?」
「OK」
パールの返答を受け、ロックはドラゴンを空へと飛翔させる。騎獣は乗り手の命令に完璧に従い、思った通りの動きができるのだが、指示を与える都合であらゆる行動がワンテンポ遅れる。
十分な高度を取ったところで前進を指示。風を切りながら前線へと向かう。
残り時間は5分20秒。クリスタルの破壊状況は1対3。苦しいがまだ逆転できなくはない。
「どう攻める?」
「マザークリスタルを狙う」
パールの質問に短く答えた。
地形の開けている北側では空からの攻撃は強力だが、建物に守られたC拠点や、塹壕戦が展開される南のD拠点、E拠点ではそこまで圧倒的な脅威とはならない。
「今からBを落としただけじゃ逆転は無理。だからマザークリスタルを狙ってノックアウトを決めるか、敵を本拠地に集中させて味方に頑張ってもらう」
やや味方任せの作戦ではあるが、この規模の戦場で2人だけでできることには限度があるので仕方ない。
再出撃の場所として選んだA拠点は戦場の中心から外れ、放置に近い扱いを受けている。だけどだからこそ、主戦場を避けるルートで一気に敵本拠地へ飛行することが可能だ。
「流石に本部がら空きってことはないか」
「けど大半はNPCでしょ。ぶっ放すわよ」
裏取りは当然警戒されている。勝っていると思ったら少数の航空戦力に本拠地を落とされるというのは、マギアウォーズのプレイヤーなら誰しも経験する負け方だ。なので当然、本拠地の対空は厚い。ただドラゴンはワイバーンと違って重装甲なので、半分くらいは無視していい攻撃だ。受けてはならない攻撃をきっちりと見極めつつ、先手先手で対処していく。
そうしてロックが回避に専念している後ろで、パールが手のひらの先に紫の魔法陣を展開した。ドラゴンもブレスという強力な攻撃手段を有しているが、竜騎兵と同等のコストを火力に振り切ったパールの攻撃性能はそれと比べてもなおレベルが違う。
放たれたのは紫の閃光。砲弾に匹敵する速さで空を駆けた光はコンクリートの地面に刺さり、備え付けの対空砲を操る兵士もろとも消し飛ばす。
このゲームの最強魔法のひとつであるカオスエクスプロージョン。高速かつ着弾地点を中心に爆発を引き起こす範囲攻撃で、歩兵ならほとんどを一撃で葬る攻撃力と重装甲にも通る貫通力を併せ持つ。本来なら長いクールタイムが必要な魔法なのだが、連射力を極限まで高めて2秒に1回の速射を可能にしたハイスペック兵士は、まさにリソースの暴力だ。
ロックが対空攻撃を捌き、パールが的確な砲撃で地上を掃除する。高コストの兵士を組み合わせたパワーは凄まじく、敵本拠地の一般的な防空戦力は正面から薙ぎ払われていく。だがここで油断はできない。本拠地が攻撃されていることは敵プレイヤー全員に通知されているし、防衛戦力が次々減らされていることもマップを見ればわかる。それにドラゴンの巨体が空を飛んでいるのは、遠くからでも目立つ。危機感を覚えた敵が本格的な対空戦力を投じるのはむしろここから。
残り時間4分。戦いはここから正念場を迎えることとなる。
次回投稿予定明日12時です。
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