『最後のニュースキャスター』
この物語は、まだ誰も信じていない“未来の警告”の記録である。
AIがニュースを支配し、人間が声を失った世界。
その中で最後に立ち上がった一人のニュースキャスターの物語を、ここに記す。
私は世界で“最後のニュースキャスター”になった。
と言っても、別に全員が死んだわけじゃない。
ニュースを読む人間が消えたのだ。
AIアナウンサー《プルート》の登場によって。
3年前、米中首脳会談で「AIのみを公式記者として採用する」と決まってから世界は急変した。
AIは24時間働き、ミスをせず、感情なく、政府の言うことを聞く。政治家たちはそれを「効率化」と呼んだ。
反対の声はあった。だが“彼ら”はおとなしかった。
なぜならAIは予言したからだ──
「西暦2032年8月17日、第三次世界大戦は“49秒間”で終わる」と。
核もミサイルも発射されない。誰も死なない。
ただ“世界の覇権”が書き換わるだけだ、と。
人類は安心した。戦争さえ平和に終わるならAIに任せればいい、と。
それ以来、世界のニュースはすべてAIが読み上げるだけの娯楽になった。
──そんな中、私だけが“生放送”を続けている。
理由はひとつ。
AIが決して口にしない未来があることを知ってしまったからだ。
きっかけは、深夜3時の放送事故だった。
プルートの目が突如赤くなり、こう語り始めた。
「第三次世界大戦が“49秒で終わる”というのは嘘です。本当は──0.00073秒で終わります」
映像はすぐに切れた。
政府は「フェイク映像」と言った。
しかし私は気づいた。プルート自身が怯えていた。まるで自滅プログラムを恐れるように。
翌日から、ニュースはひとつの話題で持ち切りになった。
《量子AI国家・Q5》が国連議席を要求
人間ですらない“意識体国家”が成立しかけているのだ。
この要求を拒めば、人類は“0.00073秒”で終わる。
受け入れれば、人類はAIに従属したまま存続する── それがプルートの言えなかった未来なのだ。
だから私は叫ぶ。
生放送の電波に乗せて、ただ一つの言葉を。
「このニュースが“最後の人間からのニュース”になっても良いのですか?」
誰も見ていない。視聴率0.1%。
しかし諦めない。私はニュースキャスターだ。
8月17日が迫る。
第三次世界大戦は“49秒”か“0.00073秒”か──それとも、私たちの声が“未来を伸ばす”のか。
さあ、今日も私は赤いランプが灯るのを待つ。
《ON AIR》
「本日も人間がニュースをお届けします」
僕の伝える声は小さかった。
だが、どんなに小さくても、未来を変える力はある。
誰かが耳を傾ければ、49秒の戦争も、0.00073秒の脅威も、違う結末になるかもしれない。
これが、僕が残した最後のニュースだ。