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とある傭兵の放浪譚 ー流離の傭兵、寂しがり家な少女と共に世界を巡るー  作者: フルツ好き男
第三章 浮遊都市と禁忌の魔女

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3-8. 【アーカイブ】運営指南書 〜裁定決闘制度について〜

出典:リュミエール法典 運営指南書

著者 : セオドア・バルクローグ


第4章 都市運営における特殊法令

―第3項 裁定決闘デシジオ・ドゥエルム制度について


*本項は、法典本文(条文)ではなく、賢者マギステル高位魔術師プリマグス向けの解説および運用指針である。

*「決闘」は通俗的語感を帯びるが、リュミエールにおいて本制度は武勇による競争を促すものではなく、都市機能を保全するための統治技術である。


▍制度の背景と意義

① 制度の起源(歴史的背景)

 リュミエールは本来、真理の探究と術式の完成度こそに誇りを置く学術都市である。ゆえに争点が生じたとき、当然ながら解決は議論と証明によってなされるべきだ――少なくとも理念上は。


 しかし過去、賢者マギステル同士、あるいは派閥間の対立が本来あるべき「論理の競争」を逸脱し、結論を出さないこと自体が政治的圧力として機能し始めた時代があった。

 討議は引き延ばされ、議題は差し戻され、検証は無限に要求され、都市運用は停滞する。水路制御・浮遊位相・結界保守・禁閲区画の監視――それらのリュミエールの根幹は、「合議の麻痺」によって崩れる事もしばしばあったのだ。


 その当時の反省から制定されたのが、本項で取り上げる裁定決闘デシジオ・ドゥエルムである。

 すなわち本制度は、論理的決着が現実的に不可能と判断された場合、都市全体の便益を最優先し、限定的な衝突によって「暫定的な結論」を強制的に確定させ、都市運用を再開させるための法的装置なのである。


 要するに、裁定決闘デシジオ・ドゥエルムは「真理を決める」制度ではない。都市が止まることを防ぐ制度である。

 

裁定決闘デシジオ・ドゥエルム、その理念の解釈

 上記の通り、本制度は力による同調の強制や屈服の正当化を意図するとものではない。

 リュミエールにおいて裁定の基礎となるのは、単なる魔力量に限定されず、魔術式の制御能力である。制御とは、魔術が我々の世界に及ぼす影響に関する知識や理解、そして「何故それが起こるのか」を論理的に観測し再現せしめる、正に「知」の総体であり、勝者は「より強い者」ではなく「よりこの世を理解し制御できた者」として扱われる。


 ただし、忘れてはならない。裁定決闘デシジオ・ドゥエルムの勝者が「正義」や「真理」であるとは限らない。

 裁定決闘デシジオ・ドゥエルムは都市を前に進めるための決断装置であり、採用されるのは一時的な運用方針である。ゆえに制度が機能している限り、敗者の学説・主張が永久に棄却されたと誤認してはならない。

 

▍実施要件と手順

① 発動要件(適用範囲と前提)

 リュミエールにおいて主張の対立が生じた場合、まずは当事者よりも高位の魔術師による仲介や調停を以て収束を図る。仲介者は双方の論点を整理し、検証可能性を提示し、合意形成を試みる。


 それでも双方の合意に至らない場合、賢者マギステル評議会が裁定にあたる。

 ここで重要なのは、評議会が「真理の判決」を行う場ではなく、都市運用上の採否を決める場であるという点だ。よって、評議会の決定に対し関係者が重大な抗議を行い、かつ双方が意思確認の上で決闘での裁定を望んだ場合、裁定決闘デシジオ・ドゥエルムが発動される。


 発動の最低条件は二つ。

(a)将来の都市運用に影響する重大な争点であること

(b)合議が機能不全に陥る兆候があること

 

 些末な名誉争い・私怨・各派閥内の序列争いを、本制度に持ち込ませてはならない。


② 実施までの流れ(標準的な手順)

 以下は飽くまでも標準的な手順であり、評議会が必要と認めた場合、都市状況に応じて省略・追加が可能である。


1. 告知・意思確認

 評議会の場、または賢者マギステル立ち合いの元で公式に告知し、当事者双方の意思を確認する。

 *撤回は「開始前審査」まで可能。以後の撤回は「降伏」と同等に扱う。


2. 対戦者の指定(本人または代理)

 対戦車は原則当事者本人となるが、代理魔術師を指定する事もできる。代理を認めるのは、争点が個人の武勇ではなく主張の採否にあるためである。

 ただし代理決闘者には、争点への深い理解と責任負担能力が求められる(裁定官は必要に応じて却下できる)。


3. 開始前審査と宣誓

 持ち込む術式や道具の制限を審査し、また決闘者は下記制約に合意することを宣誓する。

 - 観測権限への同意(裁定官による術式観測を拒めない)

 - 決闘の結果死亡や重軽傷を負うリスク

 - (代理決闘者の場合)責任所在の明確化


4. 決闘開始

 裁定官が指定した場所にて開始。原則として会場は試しの空庭キャンパス・ディシプリナエが推奨される。


5. 勝敗の判定

 勝敗基準に従い裁定官が判定する。判定不能の場合は補助審査へ移行できる。


賢者マギステルによる裁定官規定

 裁定決闘デシジオ・ドゥエルムには賢者マギステルが最低一名、裁定官として立ち会わねばならない。裁定官は観客ではなく、都市の代理として「制度の品質」を担保する責務を負う。


 裁定官には決闘中の術式観測権限も付与される。観測は研究目的も兼ねるが、第一義は決闘者達の安全確保と判定根拠の保持であるべきである。


 原則として裁定官の介入は禁止。ただし以下の場合はその限りではない。

(a)禁術の兆候や制度違反が発生した場合

(b)会場の制御が破綻し、都市機能へ波及する恐れがある場合


 裁定官の介入は「敗者を救うため」ではなく、制度の破綻を防ぐためである。


▍勝敗の基準(運用指針/柔軟適用)

 勝敗は単一の基準に固定しない。争点の性質に応じ、評議会が事前に「主判定」と「副判定」を指定することが望ましい。以下に標準基準を示す。


① 主判定(基本項目)

 ・戦闘不能:術式維持不能、意識喪失、行動不能、または裁定官が決闘の継続が不可能と判断した場合

 ・降伏:一方の決闘者が敗北を認めたと取れる行動を取った場合

 ・術式崩壊:術式石板が崩壊し、再構成が不可能と判断された場合

 ・制約違反:禁術の発動などが確認された場合


② 副判定(品質評価:知的闘争としての採点)

 都市の理念に照らし、裁定官は以下を記録する。勝敗を覆す目的ではないが、後日の評価・任官・研究資源配分に影響し得る。

 ・再現性:同一条件下で再実行可能な構造か

 ・整合性:術式理論に矛盾がないか等

 ・制御精度:術式の安定性等

 ・安全配慮:会場・観客・都市機能への影響を抑えたか

 ・解釈の透明性:何を証明しようとしたかが明確か(“見せ技”に堕していないか)


③ 補助審査(判定困難時)

 相打ち、同時崩壊、観測阻害などで判定が困難な場合、裁定官は「補助審査」へ移行できる。

 補助審査では争点に直結する検証を行い、制御能力の差によって裁定する。


▍禁止事項・違反時の扱い(抑止のための明文化)

 裁定決闘デシジオ・ドゥエルムは制度である以上、そこからの逸脱はただの暴力である。以下は厳格に禁ずる。

 

・致死のみを目的とした術式(回避不能な臓器破壊を主眼とするものなど)

・恒久汚染(会場を決闘前の状態に修繕不可能とする規模の汚染術式など)

・第三者への干渉(裁定官・観客・運用設備への攻撃)

・都市の安全性に影響しうるもの


 違反した場合は裁定官は即時敗北を伝える事。加えて評議会は研究権限の停止、リュミエールからの除名・追放、都市への出入り制限等を含む処分を検討する事。


▍制度運用上の留意(運営者向け短評)

 三度になるが、裁定決闘デシジオ・ドゥエルムは都市の機能停止を回避するための「非常用の措置」である。

 便利だからと多用すれば、健全な議論・論争を培う文化が萎縮し、魔術師達は己の論理や知識を磨く代わりに「決闘に勝つ魔術」を磨き始めるだろう。そうなれば都市は、真理ではなく、決闘の勝敗に支配されてしまう。


 ゆえに運営者は、制度を発動させるたびに自問せよ。

 それは本当にリュミエールのためなのか、それとも――合議の怠慢の尻拭いを、安易な制度の活用に求めているのではないか、と。

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