開戦
四月二十七日土曜日。十時~十五時まで。途中退室ok。参加費千五百円。大会が開催されるのは新宿のビルの一室だ。
その日俺たちは新宿の駅前で集合することにしていた。九時二十分に俺は到着したが、既に次田先輩は着いていた。
「早いですね。先輩」
「俺は待ち合わせをするときは、早く着いて現地で時間を潰したいんだよ。遅刻とかしたくないしな」
五分後、九条先輩が到着した。
「おー、二人とも早いねー。まだ時間あるのに」
「おはようございます。そういう先輩も十分以上早く来ているので、充分早いかと」
サークルのときも思ったが、軽いようでいて意外と真面目なんだよなこの人。
そして十五分後、九時四十分。鼓が到着した。
「ごめんなさい。遅くなりました」
「いやいや時間ピッタリだし、大丈夫だよ」
九条先輩が優しく答える。
俺の中で、鼓と言えばこういうやつだ。最初に見た時も発射寸前の電車に乗っていた。妙な安心感を覚える。
九時五十分。会場に到着した。
受付を済ませた鼓は会場に来ている参加者たちを見渡す。そこには、ロンギヌスやドス餅、畳の民、その他二十人ほどが集まり、既に練習試合をしていた。
「ここにいるのはエントリー参加者だけでなく、俺のような見学者もいる。それでも彼らの動きは参考になるし、参加者の動きの予習になる。よく見ておけ」
そう言われた鼓は試合中の画面をじっくり見ていた。
「どうだ。勝てそうか?」
「実際にやってみるまでは分かんないよ。でも今日僕は勝に来たんだ。無様な試合なんてしないよ」
「そうか。期待してる」
そして十時になった。司会者が壇上に立ち、挨拶と大会のルール説明をする。
「皆さんおはようございます。皆様のおかげで、今回も無事大会を開催することができました。えー挨拶はこれくらいにして、大会のルールを説明させていただきます。今大会は残機制の1on1のトーナメントとなります。残機は三、試合時間は五分。時間以内に決着がつかなければ、サドンデスに移行します。ステージは逆台形のものと、それに三つの足場があるものの二つがランダムで選択されます。AブロックとBブロックの二手に分かれ試合をしていただきます。そして各ブロックの勝者が対戦し、勝利した方が優勝者となります。敗退となった方も空いた台で遊んでいただいて結構です。また、途中退室はokです。ただし再入場はお控えください。では、事前に配られた対戦カードに従ってゲームを開始してください」
それぞれが席に着きゲームを開始する。
「えっと、僕の対戦相手は――」
「どうも畳の民です。よろしくお願いします」
「あっ、よろしくお願いします。スズランです」
互いに挨拶をし、握手をする。
畳の民さんは確かカウンターが上手いって蘇我君が言ってたっけ。癖を読まれる前に決着をつけたいな。それに剣士だからリーチには気を付けないと。
かくして試合は始まった。足場アリのステージだった。まずは足場から降りるところから始まる。
まずは互いに隙の少ない空中攻撃で牽制をかける。徐々に間合いを詰めていく。そして僕の攻撃後の着地隙を突き畳の民さんが掴んできた。そのまま後方に投げる。走って近づいてきたので攻撃をして迎え撃つ。その後はまた互いに攻撃を仕掛けるが共に外す。
僕はここで飛び蹴りで突っ込むも、ガードされ反撃を食らう。追い打ちをしようと距離を詰める畳の民さんを、掌底で攻撃する。しかしそれはカウンターの餌食になった。
こんな序盤からカウンターを使うのか。いや、カウンターが代名詞みたいな人だ。積極的に使って当然か。スマフレにおけるカウンターは、その技の発動から一秒弱の間、攻撃を当てられると、ダメージを受けず逆に、本来受けるダメージに応じた威力の攻撃を返す技。要はタイミングを掴ませなければいいだけの話だ。
カウンターを食らってステージの外に追い出されたため復帰をする。ここでも読み合いが発生する。今回相手は崖際でため突きを仕掛けている。だったらその隙をついて、崖上がり攻撃をすればいい。こうして相手を突き飛ばす。間合いを詰める。相手は足場の上に逃げる。追い打ちをかけようとするが、反撃を食らう。空中に浮かされたが、横にずらし逃げる。しかし相手はそれを許さない。追撃を仕掛けてくる。三発ほど攻撃を食らう。攻撃ボタンをガチャガチャと入力し暴れる。偶然攻撃が当たり相手を崖外に追いやることに成功した。
だが遠くまで飛ばせたわけではない。ここは深追いせず、崖際で下段蹴りをし、圧をかける。しかし相手はジャンプ復帰をして、逆に攻撃を当ててきた。背後に回られ、また崖外に追い出される。今回相手は追撃しようと崖から降りてくるが、タイミングが合わず攻撃はしてこなかった。
お互いにステージに復帰する。僕が中央に行こうとした所を攻撃してくる。コンボにはつながらず、抜け出すことができた。反撃しようと近づいたところ、振り払い攻撃で飛ばされる。崖際に追いやられ焦った僕は、足場の上にいる相手に空中攻撃を仕掛けるが、カウンターをされ、崖際に飛ばされる。
今のタイミングはばっちりだった。最初にカウンターを見せてからしばらく見せずに、意識が向いていないところで、発動する。理想通りの技の出し方と言っていいだろう。
何とか反撃をし、反対の崖に追いやるが、攻撃の後隙をつかれ振り下ろし攻撃を食らい、撃墜されてしまった。
まずい。先に残機を減らされた。この人想像以上に強い。だけど試合はまだこれからだ。これからなんだ。