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懐古

 ステップの練習をした次の日の昼休み。俺はサークル室に来ていた。鼓が攻めより守りが得意だというなら、そっちを伸ばした方がいい。というよりクラファミは、相手の動きに合わせて攻守のタイミングを決めるゲームと言ってもいい。だから守りを固めるのは理にかなっている。そこで俺は、守りの練習に適したステージを作ることにした。サークルの時間に間に合うように、昼のうちにだ。

ステージ作りと言っても、プログラミングが必要なものではない。ゲームのモードにステージを制作のモードがあるのだ。素人でもゲーム作りの気分を味わえるのはワクワクする。まだクラファミをやり始めたばかりの頃は、自分で作ったステージでよく遊んだものだ。あの頃は俺がこんな風になるなんて思いもしなかったなぁ……。思い出に浸っていても仕方がない。さっさと作って、午後の講義を受けに行こう。


 そして放課後、サークルの時間が始まった。

「今日は受け身の練習をするぞ。こっちは少しできるんだろう?」

「うん。飛ばされて地面や崖にあたるときに、ガードボタンを押すだけだから、目が追い付いたらできるよ」

「こっちの練習は現実の受け身と同じで、何度もぶっ飛ばされて練習するものだ。それに際し、最適なステージを昼休みに作った」

「おぉ、準備がいいね。どんなステージなの?」

「基本の逆台形のステージに足場を三つ、そしてステージの下には、溶岩を設置した。説明会のときと、昨日は足場のないステージを使ったが、大会では足場のあるステージも使われる。だから今のうちから慣らすぞ。それに足場のあるステージにおいて受け身は必須技能と言ってもいい。受け身がとれずダウンしたところに、足場の下から広範囲高威力の技をぶち込まれたら、撃墜は必至だからな」

「それは分かったけど、ステージ下の溶岩は何のためにあるの?」

「落ちないためと、ステージ外の攻撃を再現するためだ。ステージ()外での攻防や復帰をするとき、相手の攻撃を受けて崖にぶつかることがある。その時崖を使った受け身をとれなければ、復帰はほぼ不可能になる。特にお前はまだ上手くないから、攻撃を食らうことも多いだろう。だからあらゆるシチュエーションの、あらゆる速度でも受け身をとれるようにならなくちゃいけない」

「なるほど。頑張るよ」

「ぜひそうしてくれ。それと今回は俺も参加する。大会は一対一だが、今は受け身の練習だからな。思わぬタイミングの思わぬ攻撃を食らっても、受け身をとれるようにするためだ」

 練習を始めようとしたそのとき、九条先輩が待ったをかけた。

「待って、それだとハードルが高すぎるよ。昨日のステップのときから時間が経っていないし、まだ鼓君は色々できるわけじゃないでしょ? 受け身はできると言っても、たまにしか出来ていないって話だから、まずは一対一で練習をして、徐々に慣らしていった方が良いんじゃないかな?」

「しかし大会まではあまり時間がありませんし、ここらでガッツリ鍛えなければいけないと思いますが?」

「蘇我君。君はストイックだね。でも誰もが君みたいに、厳しくても大丈夫なわけではないんだよ。特に鼓君は本来、私と同じでロマン追求型のプレイヤーなんだよ。楽しめる範囲でやらなきゃすぐに潰れてしまうんだよ」

 思い当たる節がある。耳が痛い。

「それはっ、そうかもしれませんが……」

「でも君のいうことも確かなんだよ。だから今日は君と鼓君でやろう。苦手なものを練習するときは、比較的レベルの近い私が相手になって、出来るようになってきたら蘇我君が相手をする。これでどう?」

「なるほど。分かりました。それでいきましょう」

 かくして、受け身の練習が始まった。

 一応できると宣言していただけあって、ステップに比べたら成功率は高い。

「受け身をとりやすいよう、同じ技を主体にしているとはいえ、なかなかの精度だな」

「そうでしょ。コンボを食らいやすい重量級キャラを使うなら、特に身につけておくべきって実況者が言ってたから練習してたんだ」

「ふーん」

「って、そっけないね」

「今重要なのは、お前が受け身をとれるということであって、その理由は重要じゃないからな。あと、いつでも受け身をとればいいわけじゃない。受け身をとるとダウンを回避できるわけだが、態勢を整えるのが早すぎるせいで攻撃を食らうこともある。場面に応じて使い分けが出来るようにしておけよ。それも兼ねて他の技も織り込んでいくから集中しろよ」

「うん!」

 元気のいい返事をするが、ミスが増えたことが目に見えて分かる。

「ダメージが溜まるとぶっ飛びやすくなるし、ぶっ飛ぶ速度も速くなる。それに伴いミスをしやすくなるわけだが、地面や壁にぶつかった後でもガードボタンは押せ。僅かだが勢いを殺せる。それと飛ばされるときは、スティックを入力して飛ぶ方向をずらせ。この二つをすることで生存確率は上がる」

 これを聞いた鼓は実行に移す。

「おぉ本当だ。同じダメージでも、ひとつ前の残機のときは撃墜されたけど、今回はギリギリ耐えられた。ずらしを入れるだけでも変わるんだね」

 子犬のような笑顔を浮かべ楽しそうに話す。なんだかクラファミをやりたての頃を思い出してしまう。俺もあんな風に楽しんでたんだよなぁ。思わずそんなことを考えてしまった。

「それと、ステップのときに言い忘れていたが、スティックを動かす左手の親指は曲げずに伸ばしておけ。曲げていると動かしやすさはあるが、急に指を伸ばすことになる分、動きが大味になりがちだ。俺も最初はそうだった」

 こんなことを言うのは感傷的になったからだ。そうに違いない。

「えっ、そうなの⁉」

 こいつホントころころ表情を変えるな。見ていて楽しいくらいだ。

「お前の場合はな。上手い人全員がそうしているわけではないし、曲げたままでも細かい動きができる人もいる。こういうのは気付きと慣れが重要だ。早いうちに気付いて、疑って、検証して、慣らす。上手い人の話を聞くだけじゃ足りないことは多い。受け身には関係ないから今はいいが、裏で確認しておけ」

「うん。分かったよ」

 そんなこんなで今日も時間が来た。

あれこれと練習をしているうちに時間は経ち、ついに桜杯当日が来た。

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