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ヒトならざる者が住まう世界へようこそ!  作者: 鈴
終章第一節 終わる為の長い戦い
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23話 大将会議


─side 彩月─



大将会議。それは文字通り7つの軍の大将が一箇所に集まってする会議だ。


大将会議はこれまで9回しか開催されたことがなく、最後に開催されたのは40年ほど前だ。そして今回で10回目。これまでの統計で見ればまだ頻度が早いほうだろう。



今回の議題は、私とセツナのこと。そして美波のこと。

情報軍からは何の通達もないが、どうやら他の軍が美波のことを嗅ぎ付けてしまったらしい。むしろこれまで美波のことが公になっていなかったのが凄い。

十中八九去雪が関与しているが、何を考えているかわからないな。この会議で聞ければ良いんだけど。



「彩月、俺も一緒に行こうか?」



こてん、と首を傾げながら私の顔を覗き見るルナ。一般的にあざといと呼ばれるような仕草だが、その手にはナイフを持っている。


私がセツナから解放されて3日。その間にわかったことだが、私はどうやら『良い上司』に当てはまるようだ。

そのお陰で『私』を知らない部下たちにもたった3日で懐かれてしまった。その部下の中には、当然ルナも入っている。


私は面倒見が良いらしい。真面目で律儀で、仕事も早い。まさに理想の上司だ、と元人間の部下に力説された。目が血走っていたが、生前何があったかは聞かないでおいた。



セツナは美波以外に関心がなく、セツナが処理した仕事や書類を確認したら頭を抱えたくなった。こんなおざなりな仕事でよく170年も保ったものだ。部下が優秀だったのだろう。

その後始末を1日かけて終わらせ、セツナが迷惑をかけた人にお詫びの品を持って謝罪に行った。そしたら何故か部下たちにきらきらとした眼差しを送られるようになったのだ。このぐらいは当然…だと思うのだが………


とまあそれは置いといて。とにかくこの3日間はセツナのやらかしの後始末に追われていた。

ようやく通常勤務に戻れる、と思ったら大将会議に呼び出されたのだ。



そしてそれを聞いたルナの反応が()()である。殺意が高いのだが、セツナはルナに何を教え込んだのだろうか。


「問題ないよ。セツナ越しだけど他の大将の性格はなんとなく把握してるし」


()()()()()()()()()()()()から問題ないよ、とは言わないでおいた。怖がらせたくないし、二度と孤独になりたくない。


……そんなことはどうでも良いか。問題は大将会議だな。



どんなことを追及されるやら。




◇◇◇◇◇◇◇




はぁ、と溜め息一つ。今いる場所は陸戦軍の特別会議室。大将が全員集まり、会議が始まったはいいものの……


「だーかーら!美波に手を出すなって言ってるの!これだから鳥頭は!!」

「何故だ?強者と戦うことの、何が悪い?」


空戦軍大将、酩。ここ数十年で大将になった妖怪。こいつを一言で表すなら戦闘バカ。美波以外に興味がないセツナの記憶に残るぐらい、と言ったらその度合いがわかるのではないだろうか。


雅藍と水刃は何度か叩き潰したことがあるからまだ言うことは聞く。勿論裏で色々暗躍しようとするだろうが、そこは今どうでもいい。



しかし酩は全く頷かない。強者である美波と戦いたいの一点張り。色々理由を並べ立てても、「だからどうした?」と全く聞く耳を持たない。


鈴と萌は肩を竦め、去雪は頭を抱えている。雅藍と水刃はどこ吹く風だ。


「酩……少しは自重したらどうだ?」


酩と比較的交流のある鈴が酩を窘める。だが酩は心底意味がわからないと言ったような顔をしてはそれを拒否する。



───いい加減、腹が立ってきたな。



私は気が短い方ではない。他者の意見は尊重すべきだと思っている。だが酩の言い分は尊重できない。


我儘を言っているだけの子どもにしか見えないからだ。



ただ自分の快楽のためだけに先達の忠告を無視する若造には、少し痛い目を見てもらわないと。

でもどうする?雅藍と水刃にやったような方法で叩き潰すか?でもこいつの性格的に私が酩に付きまとわれるようになるだけだろう。


それは()()だ。


だが私以外に『適任』がいるだろうか?そう思案していた時だった。



───ピピピピ。



私の携帯の着信音が鳴った。


「電話…?……出てもいい?」


携帯を見せながら聞くと、皆不思議そうな顔で頷いた。


「一旦部屋出るね」


急いで部屋を出て、画面を確認する。そこに映されたのは『十六夜』の文字。何の用だろう、と疑問に思いながら応答ボタンを押し、携帯を耳元に運ぶ。



『もしもし?彩月か?』



携帯から聞こえてきたのは紫白愛の声だ。


「うん。紫白愛、だよね?どうしたの?」

『愛でいい。家名は好かん。用件だが、漸く千秋と連絡が取れた。今日から美波と千秋を同行させる。一応その報告を、と思ってな』


千秋、とは確か美波と同等の力を持っているという処刑人だったか。……そうだ。一応酩のことも報告しておこう。


「それなんだけど、2人に気をつけるよう言ってくれない?今丁度大将会議中なんだけど、空戦軍の酩が美波と戦いたいってうるさくて…」


我ながら頭の痛い話だ。前任の空戦軍大将は思慮深い人物だったというのに。



『ふむ……なら千秋と戦わせるのはどうだ?』



その提案に、声すら出せず呆けてしまう。確かに強いとは聞いていたが、千秋本人はそれで良いのだろうか?物凄く良くない気がするのだが。


そんな私の考えを読み取ったのか、愛はこれまたとんでもないことを提案してきた。


『千秋は自己肯定感が低いからな。その酩とやらには踏み台になってもらおう。千秋の実力なら酩とやらを抹殺するのも容易だろう』

「いやいやいやいや!?その千秋さん?の意思は!?」


廊下だと言うのに思わず大声を出してしまい、咄嗟に携帯を持っていない方の手で口を覆う。

抹殺?酩を抹殺すると言ったか?大将になる為にはそこそこの戦闘能力がなければならない。叩き上げでなれる役職ではないのだ。


前任の空戦軍大将は1000年以上を生きた熟練の戦士だ。その戦士を打ち破って大将の座についた酩を、そう簡単に殺せるわけがない。最悪の場合、その千秋とやらが殺されてしまう。


『あいつには荒療治が必要だ』


しかし愛は千秋とやらが負けるとは微塵も思っていないらしい。


「………はぁ…」


また溜め息を一つ。私は千秋とやらを全く知らないが、愛はそうではない。ここは私が折れるべきか。


「……どうなっても知らないからね。あと、酩を殺すのはなしで」

『伝えておこう。用件はそれだけだ。ではな』


プツン。そう言って、愛は電話を切った。また溜め息を吐き、携帯をポケットに戻す。


会議室に戻ると、酩と目が合った。



「美波さんと一緒にいる千秋?って人を先に倒せ、だってさ。本人は自分が強いことを自覚してないから、酩に踏み台になってほしいって」



溜め息混じりにそう言うと、酩の目がギラリと光った。千秋とやらには今度お詫びの品を持っていかないといけないかもしれないな。生きていれば、の話だが。

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