カンカの町
《 …と、この4日間で色々とご説明致しましたが、こちらの世界の常識についてはともかく、所持スキルである鑑定と空間魔法については及第以上の点数を付けねばならないでしょう。流石、ケンキチ様のお孫様といったところでしょうか 》
「何だよそのお孫様ってのは!気持ち悪いからそんな呼び方すんなよな。でも、【中吉】のお蔭で魔力とスキルの初歩的な使い方は何とかなるようになったよ。サンキューな。流石ジイちゃんが作った俺専用音声&画像支援アプリだな」
《 お褒めに預かり光栄です。まもなく人里に着きますが、その前にコレをお渡ししておきます 》
【中吉】がそう言うと俺の目の前に一枚のカードが落ちてきた。
「これは?えーと、ナニナニ…商業組合仮登録票?」
《 そうです。ケンキチ様が生前、ジローの為に準備していた物です。これを持って商業組合に行けば正式に登録出来ます。そうそう、ここへ来るまでに討伐した魔物を買い取ってもらえばこれからの路銀や商売を始める資金の足しにもなります。それと、これからのワタシとの会話はくれぐれも念話でお願いします 》
「わかってるってば!そんなにn」
《 早速分かっていないようですが… とにかくもう人前に出ますのでよろしくお願いしますね。ジローが変な目で見られても良いならこれ以上は言いませんが。それとこちらもお持ちください 》
今度は小さめの巾着袋が落ちてきた。
「これは…お金か!これが銅貨かな。ってことは百コロンだね。で、こっちが銀貨だね。1万コロンか」
《 そうです。ちゃんと覚えていますね。その袋の中には10万コロン入っています。今回は商業組合への登録と実際にお金を使ってみる事が目的です。ただ、日本のように治安が良いとは限りませんので人前では銀貨以上は使用しない方が良いでしょう 》
「そんなもんなのか。了解。気を付けるよ。おっ!あれが町の入口かな?」
《 検索によるとカンカの町の様ですね。商業組合もある町です 》
俺から見える範囲だけど、町は石造りの壁で囲われているようだ。大体3メートル弱くらいだろうか。『絶望の森』という不穏な呼び名の森を出た最寄りの町の防壁としては若干微妙ではあるが、これが普通なのだろうか。などと考えていたら町への入口となる門に着いた様だ。門番だか守衛だか分からんけど、武装した厳つい男がこちらへやってきた。
「身分証を拝見」
俺は魔導車の窓を開けて商業組合の狩り登録証を差し出す。
「これで良いですかね?」
「仮登録証ね。構わんよ。それにしても随分立派な魔道車だ。どこか大店のご子息かい?」
「いえいえ、ただの商人見習いってところです。魔道車も祖父から譲り受けたものでして」
身分証を受け取りながらそう答える俺に、武装した男はにこりと笑みを浮かべ
「そうかい、なら頑張らんとな。入町税は3千コロンだ」
俺はブラック企業で培った微笑み返しで大銅貨3枚を差し出した。
「カンカの町へようこそ。商業組合の場所は分かるかい?」
【中吉】のナビがあるから分かるんだろうけど、一応知らないフリをして道を聞いておいた。どこで怪しまれるか分かんないからね。
それから魔道車を徐行させながら商業組合の前まで来たんだけど、駐車場が見当たらず路肩でオロオロしていたら組合から出て来た人に声を掛けられた。
「商業組合に御用ですか?」
「はい、こちらには初めて伺ったのですが魔道車を停める場所が分からなくて」
「それでしたら、そちら側の路肩にあるポールの前に停めて下さい」
促されるままに魔道車を移動させ、指定されたポールに横付けすると
「駐車を受け付けました」
急に聞こえたんでびっくりしたけど、どうやら音声で受付完了を教えてくれるらしい。ということは有料か。案外ちゃっかりしてんのね。
魔道車を降りた俺は商業組合のドアを開け中に入った。中は何だか昔の映画に出てくる銀行といった趣の作りだ。物珍しさにキョロキョロしていると女性に声を掛けられた。金髪で笑顔が可愛い。
「商業組合へようこそ!どの様なご用件でしょうか?」
「はい、え~と商業組合へ登録したいと思いまして。仮の登録証は持っているんですが」
「かしこまりました。では此方の窓口へお越し下さい」
促された俺は素直に窓口まで行き、さっき【中吉】から受け取った仮登録証を提示した。
「仮登録証ですね、それでは拝見します。…はい、これは王都で発行された物の様ですね。カイダ ジロー様、と。わかりました。それではこちらの申請書に必要事項をご記入ください。あら、男性なのに綺麗な字を書かれるんですね。商人として字が綺麗なのはとても良いことです。大きな商いともなれば契約書の作成やそれにサインをすることもありますしね。大きな利点です!」
「そうですか?ありがとうございます。文字は幼い頃祖父に習いました。きっと祖父の教え方が良かったんでしょう」
そんな会話をしながら書類に記入を済ませると、受付の女性は奥に引っ込んでいった・・・と思ったら慌ててこちらに戻ってきた。
「カイダ様、誠に恐縮ですが、こちらにお越し頂けますでしょうか」
「は?はい」
受付の女性に促されるままついて行く俺。何故か受付の女性は歩きながらもこちらをチラチラと伺っているようだ。何かまずい事でもあったのかと考えていた矢先に【中吉】が念話で話し始めた。
《 恐らくあの仮登録証の意味を知っている人が見たんでしょうね 》
《 ん?どゆこと? 》
《 あの仮登録証にはケンキチ様の縁者である証が刻まれているのです。もちろん、一介の受付嬢や職員には分からないでしょうが。ということは組合でもある程度上の者が居たのかもしれませんね 》
《 なるほど。でもそれってマズくないの?》
《 ケンキチ様の直接の孫などと知れたらそれは大騒ぎでしょう。しかし、遠縁の者で押し通せば問題はありません。ケンキチ様の縁者や縁者を名乗る者などいくらでも居るでしょうから 》
などど話している内に俺を呼んだ人の部屋の前まで来た様だ。