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雨に疼く  作者: ひろゆき
9/74

 一  3  ーー ただ、止めたい ーー  (3)


 優弥が通う学校の沿線は二通の鉄道路線に分かれていた。

 途中まで涼介と帰り、涼介のバイト先と優弥の向かう駅は違っていたので、途中の交差点で別れることになった。

 最後まで「面倒くせ」た悪態をつく涼介を茶化し、目的、駅へと向かった。

 直接家に帰るならば、快速電車一本でよかったのだけれど、普通列車を選び、二つ目の駅で途中下車をした。



 改札口を出ると、なぜか胸がグッと重くなる。

 なぜか異世界に来たような雰囲気があり、風が重たく肩に寄り添っているみたいだ。

 ふと空を見上げれば、薄い雲が申し訳なさげに、オレンジ色の空に被さってグラデーションを帯びていた。

 ビルの隙間に、陽が沈もうとしており、黒い闇が遠くからオレンジ色を浸食していく。

 スマホを取り出し、時間を確認した。

 

「……まだ早かったかな」


 誰に言うわけでもなく呟き、横を見ると、一度瞬きしてゆっくり息をついた。


 視界が捉えたのはドラッグストアの正面入り口。


 昨日、万引きをしようとした若菜を引き留めた店前にいた。

 ドラッグストアの店先には、特売品だろうか、トイレットペーパーの包みが運搬トレーに積まれている。

 すでに半分以上がなくなっていた。

 昨日、訪れた時間より一時間ほど早いせいか、通りの人影はさほど多くない。

 空が暗さを増していくにつれ、反抗するみたいに、店内の明かりが煌々と外にもれていた。


 あいつ、本気で言っていたのか?


 ふと浮かんだのは、昨日の若菜との別れ際の会話。


 あのときの捨て台詞は冗談なのか本気だったのか。

 真意はまだ掴めない。

 学校で涼介と喋っている最中、若菜が消えていたときから気になっていた。

 昨日の出来事もあり、勝手に体が動いていたのである。

 放っておけばいい、と心のどこかで囁いているのは事実。


 何やってるんだよ、まったく。


 それどころか、己を罵る冷徹さも否めない。

 二つの感情が入り交じり、胸苦しさに襲われながらも、ドラッグストアの前を通りすぎる人を険しく目で追い、若菜の姿を捜してしまう。

 若菜に似た雰囲気の女の子を見ては胸が詰まり、一歩踏み出しそうになってしまう。

 そこで理性と躊躇が足を止めるのを何度も繰り返していた。

 スマホをいじりながらも、あたかも誰かを待ち合わせている態度で壁に凭れ、若菜が来るか待っていた。


 十五分ほど待っていると、ふと壁から背が離れ、店へと体を向けた。

 若菜は優弥よりも早く学校を出ていたはず。

 もしかすれば、優弥よりも早い車両に乗っていたかもしれない。

 そもそも、ここに来ることもなく、別の場所に行った可能性だってある。


 それにもし店に来ているなら、すでに帰ったかもしれない。


 そんなことを考えながら、店に向かっていた。


 クソッ。


 頭を掻き毟ってしまう。

 

 これじゃまるでストーカーじゃん。


 風か頬を撫で、生温さに一瞬冷静さを取り戻し、客観的に己を見てしまう。

 より罵り、奥歯を噛んでしまった。

 違う、違うと言い聞かせ、かぶりを振ると、意識を前方に向け、足に力を込めた。


 自分は間違ったことをしていない、と。

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