一 3 ーー ただ、止めたい ーー (3)
優弥が通う学校の沿線は二通の鉄道路線に分かれていた。
途中まで涼介と帰り、涼介のバイト先と優弥の向かう駅は違っていたので、途中の交差点で別れることになった。
最後まで「面倒くせ」た悪態をつく涼介を茶化し、目的、駅へと向かった。
直接家に帰るならば、快速電車一本でよかったのだけれど、普通列車を選び、二つ目の駅で途中下車をした。
改札口を出ると、なぜか胸がグッと重くなる。
なぜか異世界に来たような雰囲気があり、風が重たく肩に寄り添っているみたいだ。
ふと空を見上げれば、薄い雲が申し訳なさげに、オレンジ色の空に被さってグラデーションを帯びていた。
ビルの隙間に、陽が沈もうとしており、黒い闇が遠くからオレンジ色を浸食していく。
スマホを取り出し、時間を確認した。
「……まだ早かったかな」
誰に言うわけでもなく呟き、横を見ると、一度瞬きしてゆっくり息をついた。
視界が捉えたのはドラッグストアの正面入り口。
昨日、万引きをしようとした若菜を引き留めた店前にいた。
ドラッグストアの店先には、特売品だろうか、トイレットペーパーの包みが運搬トレーに積まれている。
すでに半分以上がなくなっていた。
昨日、訪れた時間より一時間ほど早いせいか、通りの人影はさほど多くない。
空が暗さを増していくにつれ、反抗するみたいに、店内の明かりが煌々と外にもれていた。
あいつ、本気で言っていたのか?
ふと浮かんだのは、昨日の若菜との別れ際の会話。
あのときの捨て台詞は冗談なのか本気だったのか。
真意はまだ掴めない。
学校で涼介と喋っている最中、若菜が消えていたときから気になっていた。
昨日の出来事もあり、勝手に体が動いていたのである。
放っておけばいい、と心のどこかで囁いているのは事実。
何やってるんだよ、まったく。
それどころか、己を罵る冷徹さも否めない。
二つの感情が入り交じり、胸苦しさに襲われながらも、ドラッグストアの前を通りすぎる人を険しく目で追い、若菜の姿を捜してしまう。
若菜に似た雰囲気の女の子を見ては胸が詰まり、一歩踏み出しそうになってしまう。
そこで理性と躊躇が足を止めるのを何度も繰り返していた。
スマホをいじりながらも、あたかも誰かを待ち合わせている態度で壁に凭れ、若菜が来るか待っていた。
十五分ほど待っていると、ふと壁から背が離れ、店へと体を向けた。
若菜は優弥よりも早く学校を出ていたはず。
もしかすれば、優弥よりも早い車両に乗っていたかもしれない。
そもそも、ここに来ることもなく、別の場所に行った可能性だってある。
それにもし店に来ているなら、すでに帰ったかもしれない。
そんなことを考えながら、店に向かっていた。
クソッ。
頭を掻き毟ってしまう。
これじゃまるでストーカーじゃん。
風か頬を撫で、生温さに一瞬冷静さを取り戻し、客観的に己を見てしまう。
より罵り、奥歯を噛んでしまった。
違う、違うと言い聞かせ、かぶりを振ると、意識を前方に向け、足に力を込めた。
自分は間違ったことをしていない、と。