一 2 ーー ただ、止めたい ーー (2)
きっと涼介に抑えろ、と言っても無駄なんだろう。
だから強くは指摘しない。
「英人は? あいつももう帰ったの?」
聞きながら教室を見渡す涼介。
半ば涼介のことを諦めつつ、つられて教室を見渡してしまう。
「あいつもバイトだって。それは昼間聞いた。すぐ出ないと時間がヤバいらしい」
増田 英人
涼介とともに優弥の親友であった。
彼は昼間、話をしていて釈然と眉をひそめていた。
授業が終わると、速攻で帰らないとシフトの時間に間に合うか微妙だ、と怪訝に話していた。
それを聞いて、「ご愁傷様」と嫌味をこぼして笑っていたのを思い出した。
机のなかから必要な物を整理しながら、嫌そうにする英人の顔を思い出し、つい口元を緩めつつ、涼介に伝えた。
「あいつも何かほしいのがあるのか?」
「いや、英人の場合は遊ぶためだろ」
「あぁ、愛梨とね。なんだかんだ言っても、仲いいからな」
「あいつの勢いによくついて行けるよな。僕なら面倒くさい」
英人には恋人がいた。
別に悪い奴じゃないし、苦手じゃないのだけど、涼介と互いに苦笑した。
ま、いろいろあるだろ、と最後にこぼして、また教室を見渡した。
そこで、さっきまでいた若菜の姿がなく、すでに帰っていることに気づいた。
いつの間にあいつ。
「じゃぁ、俺も先に帰るわ。バイト先、家と逆だから」
「僕も。僕もちょっと行きたいところがあるし」
じゃ、と手を上げて帰ろうとする涼介を引き留め、優弥も慌てて荷物をまとめ、涼介とともに教室を出た。
まさか、な。
重苦しい授業から解放されたにも関わらず、ふと優弥の足は重く、表情が引きつりそうになった。