終 ーー 彼女に降る雨はやまない ーー
英人と涼介に何が起きたのか?
やはり、どれだけ考えても心境を理解することはできなかった。
それでも、優弥にも一つだけは理解できることがある。
それは、二人が無謀なイジメをするような、軽率で器の小さい人間なんかじゃない。
腹いせや、八つ当たりで人を傷つけるクズなんかじゃない。
それだけは断言できる。
野阪に一方的に暴力を振るうなら、それなりの理由があることも。
それも、命に関わるほどの痛みを伴わせるならば、それ相応の落ち度が野阪にあるのだと。
その裏には若菜が関わっている。
若菜と野阪がどう繋がっているのかは優弥にもわからない。
けど、二人は若菜のために動いてくれた。
そして、その根源に「柳田優」が関わっている。
彼が関わっているのであれば、それは決していいことに繋がっていない。
若菜に危険が迫っている。
その危機感だけは直感した。
心が騒ぎ出し、優弥はじっとしていられなかった。
愛梨との通話を切ると、すぐさま病院へと走った。
家を飛び出したころ、時雨れだした空は、月も星も隠し大粒の雨をこぼしていた。
雨はアスファルトを冷やしていく。
懸命に走っていた優弥を冷やかすように、病院に着くころには雨粒は増していた。
ポツリと頬を濡らし、汗と混じったシャツが肌にへばりつき、不快でしかなかった。
それでも、優弥の焦りは鎮まることなく、心臓は内側から激しく脈打ち、肩を大きく揺らす。
気持ちを抑えようと、呼吸を整えた。
病院のロータリー前。
傘を差す人が次第に増えるなか、人混みに混じって優弥は立ち尽くしてしまう。
病院内に立ち入ることができない。
病院前の歩道は多くの人で賑わっていた。
ただ、浮ついた空気はない。
物々しさが際立っていた。
ロータリーにはパトカーが四台並び、赤色灯を点滅させながら車道を塞いでいる。
けたたましく回転する赤色灯は、病院の玄関に反射し、より緊張感を辺りに広げていた。
正面玄関は開けられたままになっていたが、“立ち入り禁止”と印字された規制線が貼られ、二人の警察官が警備に当たっていた。
何があったんだ?
騒然とするなか、ロータリー前の人集りに優弥は紛れ、正面玄関を睨んだ。
すぐそこに入れそうで入れない。
もどかしさが焦りを助長させ、スマホを握る手に力が入り、悔しさで奥歯を噛んだ。
より雨が体を濡らしていく。
ダメだろうと理解しつつも、若菜に連絡しても繋がらない。
若菜の病室がある方角を眺めた。
雨が前髪を濡らし、額にへばりつく。
心臓の動きは激しさを増すばかり。
「なんか、人殺しがあったみたいよ」
辺りの野次馬の会話が自然と優弥の耳に届く。
「……藤村……」
若菜を案じる独り言が雨に邪魔させ、儚く地面に落ちていく。
次第に視界が霞むと、パトカーの赤色灯がぼやけていく。
優弥の気持ちを阻むように、雨が行く手を遮っていく。
「藤…… 若菜、大丈夫なのか……」
初めて名前で読んでいた。
その声は……。
了
無事に最終回を迎えることができました。
この物語を考えだした当初、優弥に若菜が互いに意識しながらも、素直にならない、という話にしようと考えてました。
また、最後に主人公が途方に暮れる、という漠然として考えていました。
そのうちに、次第に暗い方向に進んでいくことになりました。
決して、ハッピーエンドではありませんが、これを読んで少しでも胸に詰まるものが生まれれば、幸いです。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。




