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雨に疼く  作者: ひろゆき


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 九  2  ーー 疼く ーー  (2)


 優の冷徹な笑みは崩れはしない。


「押したければ押せよ。でも、俺は何もしてない。言い訳はなんとでもできるぞ」


 脅しは通用しないとわかっていても、若菜はボタンからは手を放さず、優を睨み続けた。

 若菜の警戒心を無視し、優は腰に手を当てると、勝手に病室をうろつき、室内を物色しだした。


「何しに来たのよ」


 平然とテレビのリモコンを手にし、電源を入れてチャンネルを回す優。

 自然と訝しげに聞いてしまう。


「ーー別に」

「学校は?」

「休み」


 絶対に噓なのはわかっている。

 テレビを見ている横顔に追求しないでいると、優は思い当たる番組がなかったのか、電源を切って乱暴にベッドの上にリモコンを放り投げた。


「じゃぁ、なんで?」


 あぁ、そうか。と病室の中心で腰に手を当てた。


「お前に言いたかったんだ。逃げられないってな」


 振り返った優は、何か獲物を物色するみたいに陰湿な眼差しで見てくる。

 舐めるような姿に、若菜は身の毛がよだつ。


「お前、あの日って結局小学校に来なかったよな。おかげで客が減ってさ。その後も全然、お前学校に来なかったしさ」

「……それは」


 噂を聞いたから。とは言えない。


「そのときの分をさ、今返してほしいんだよ。わかるよな、その意味」


 嬉しそうに首を傾げ、返事を待つ優。

 若菜の苦しむ姿を楽しみながら。


「……そんなの……」

「嫌だってなら、別にいいぞ」


 思いがけない反応に、途方に暮れてしまう。

 信じがたい言葉を疑いながら。


「谷口って言うんだって、あいつ。お前の新しい男か? なんだったら、そいつに教えてやってもいいぞ」

「教えるって何を……」


 大体の想像はつく。

 光をちらつかせ、一気に絶望に突き落とす素振りをして、嘲笑う優。

 大きな獣を威嚇するように、若菜も噛みついた。

 だが、優は悠然と体の凝りを解すみたいに首を回してみせた。


「大体、なんで谷口くんのことを……」

「そりゃ、いろいろと情報源ってのも俺にはあるからな」


 動きを止め、人差し指で宙をクルクルと回してみせる優。

 憎らしい姿に、脳裏には野阪のことが浮かび、自分の学校生活が筒抜けになっていることに恐怖が襲った。

 悔しさに顔を伏せ、奥歯を噛んだ。


「さて、じゃぁ、何を伝えてほしい? お前が“人形”だってことか? 喜ぶぞ、彼氏」

 

 ナースコールを呼ぼうとするのを必死に堪える若菜に、優は陰湿に言って笑う。


「なんだったら、カラオケボックスでのことを伝えてやろうか?」

「そんなのっーー」

 

 咄嗟に顔を上げ、声を荒げるが、「もう知っている」とは言えず口ごもってしまう。


「彼はそんなの気にしない……」


 強がりが願望となってこぼれた。

 だが、優はよりニヤつくと、おもむろにスマホをかざした。

 意味がわからず睨んでいたときであった。

 全身から血の気が引き、息苦しくなった。


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