九 1 ーー 疼く ーー (1)
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病室の窓から外を眺めていると、空は雲一つない快晴。
午後から一時的に雨が降ると言っていたが、噓みたいな清々しさに、若菜は心は穏やかになった。
よく考えれば、自分から空を見上げるのも久しぶりだった。
不思議と体が軽くなっていた。
若菜は棚に手を伸ばし、メガネを取ってかけてみた。
メガネをかけるのも久しぶり。
入院当初、習慣からかけようとしたけれど、頭痛が酷くなって止めていた。
痛みに耐えてメガネをすれば、谷口優弥に酷く当たらなかっただろうか、と昨日から考えてしまう。
ふと視線を移せば、メガネのそばにあったピンクのペンを取り、クルクルと回してみた。
“戒め”として貰ったペン。
入院して心が乱れ、優弥に対しての態度を後悔してしまう。
でも贖罪の念から話したわけではなかった。
ペンを眺めてしまう。
英人と涼介からの助言もある。
でも、自分から優弥に話したいと考えたのだから、伝えたのだ。
後悔はないと断言できる。
自分の辱めを伝えたのに、気持ちは晴れていた。
美桜にも言っていなかったのに。
「美桜にもちゃんと謝らないと……」
晴れやかな気持ちで言い聞かせていたとき、不意に病室の扉がノックされた。
そばにあった時計を見ると、まだ午前十時前。
学校に行っているはずの優弥や美桜の可能性はなかった。
ほかに思い当たる人物はいない。
はめ殺しの扉の磨りガラスに人影が映っていた。
体格から、看護師の浜崎でもないのも伝わってくる。
不審に思いつつもペンを棚に戻して短く返事した。
優弥なら、「入るよ」と断りを入れたが、それはなく、無言のまま扉が開かれた。
「ーーよう」
全身の骨にまで染み込むような冷徹な声。
若菜は驚愕から全身が凍った。
足音を殺すように入ってきたのは、柳田優。
「……なんで…… なんであんたが」
「なんだよ、元カレが見舞いに来てやったのに、なんだよその言い草は」
ジーンズに青いシャツを着た優。
不適に口角を吊り上げ、扉をゆっくりと閉めた。
密閉された空間になった瞬間、おぞましい優の雰囲気に体が縛られていく。
一歩若菜に近づいた優に、咄嗟に若菜はナースコールのボタンに指を触れた。
負けてられない……。
「来ないでっ。来たら人を呼ぶわよっ」
身を丸め、子猫が威嚇するように怒鳴った。
微動だにしない優。
腕を組むと、また不適に狡猾な笑みを浮かべた。




