八 8 ーー 柳田 優 ーー (8)
野阪は床でもがき、痛みに体を捻らせていた。
そこに涼介が容赦なく溝内を蹴り込む。
野阪はさらに唸って頬を歪める。
「お前、どこまであの子を追い詰めれば気が済むんだよっ」
「高梨っ、止めろっ」
怒鳴る涼介を、黒板付近から男子生徒の制止する声が飛んでくる。
だが、誰もが二人の剣幕に圧倒され、近寄ろうとはしない。
英人も決死の制止を無視した。
痛みにもがいていた野阪は、耐えきれず仰向けに体勢を変えた。
まだ右耳からは手を放さない。
「……言ったろ。柳田によって、藤村はもう商品なんだ。逃げられないさ、逃げーー」
無理に強がり、嫌味をこぼす野坂の顔を涼介は蹴り、そのまま口を踏みつけた。
「るさいよ。クズが喋るな。お前が喋るだけで空気が汚れるんだ」
ねじ込むように右足を踏み込む涼介。
野阪は懸命に涼介の足を掴もうとすると、足を浮かして腕を払い、また脇を蹴った。
「汚い手で触るな」
「おいっ、お前ら何やってるんだよっ。ってか、香川呼んでこいっ」
騒然とする教室。
騒ぎを聞きつけた隣のクラスからも人が流れ込み、廊下に人集りができていた。
なかにはスマホで英人らを録画している者もいる。
苦悶に歪めながらも野阪は空気を必死に空気を吸い込んでいた。
「安心しろよ。今回はもう選択なんてさせないからさ」
力ない眼差しに、涼介と向かい合った英人が蔑んだ目で見下ろしていた。
「……助け…… け…… て……」
必死で絞り出した声は無惨に散る。
野阪の懇願が終える前に、英人が喉元めがけて右足で踏みつけた。
公園の砂場にできた砂山を踏み潰すように、英人は踏み込む。
気道を塞がれた野阪は大きく口を開き、必死に肺に空気を送り込もうとするが、遮断されてしまう。
次第に瞳孔が開き、血走っていく。
英人の足を掴もうとしていた腕も、苦しさにもがき、床を激しく叩いていた。
足をばたつかせて抵抗する野阪ではあったが、次第に大人しくなっていく。
「だから喋るなって。お前に権利なんてないんだよ」
容赦ない英人の蔑みは、涙を浮かべる野阪に降り注ぐ。
「おいっ、お前ら何をやっているんだっ」
そこに騒ぎを聞きつけ駆けつけた担任の香川と教育指導の細見。
二人は乱暴に叫び、教室に飛び込んできた。
香川が入り込んできたのは前方の扉。
怒鳴り声を聞き、英人と涼介は一度顔を見合わすと、香川に振り返る。
野阪から足を放さず。
能面のごとく、二人からは感情は消えている。
「何をしてんだっ」
あくまで冷淡な態度に驚いたのか、香川の声はどこか萎縮し、声が震えていた。
「何って……」
「ゴミ掃除」
「ゴミ掃除」
二人の声は重なり、張り詰めた教室に木霊した。




