八 7 ーー 柳田 優 ーー (7)
勢いに脅えた野阪は体を反らした。
それを見て英人は嬉しそうにペンをクルクル回すと、
「冗談だよ、冗談」
血の気を引かせる野阪にふざけてみせた。
「ーーけど」
「ーーけど?」
「お前はやっぱ、クズだな」
そこで英人は手にしたペンをポトンと机に落とした。
そのまま顔の前で拝むように手を合わせる。
しばらく目を瞑り、英人は黙る。
英人の沈黙に不安を感じたのか、野阪が口を開こうとしたとき、
「涼介、お前何か聞きたいことあるか?」
と静かに聞く。
「ーーない。ってか、人の話を聞こうともしない奴に、これ以上聞くのも面倒だ」
「ーーだな。これ以上詳しく聞くのもイラつきそうだし」
野阪を挟んで淡々と交わされる会話。
互いに感情を押し殺す口調は、野阪にとっては頭の上でナイフを投げ合っているようで、恐怖に縛られていた。
「ーーもう終わりだな」
嘆くように涼介がこぼすと、野阪の顔の右側に、涼介の右手が後ろから触れた。
刹那ーー。
ガシャンッと耳を裂く破裂音が響いた。
教室のざわめきが一斉に静まり返る。
訪れる一瞬の静寂。
瞬きするほどの合間に、教室にいた生徒が破裂音がなんだったのかを理解した。
ガラスが割れた音であると。
野阪の顔を掴んだ涼介は、そのまま勢いよく左の窓ガラスに野阪の顔を体ごとぶつけた。
容赦なくぶつけられ、窓ガラスが割れ、破裂音とともに野阪の左頬が血で染まった。
「ーーっ」
野阪の声にならない悲鳴が静寂を裂く。
痛みを堪えながら手で左頬を押さえるが、ガラスの破片は耳元に刺さり、指の間からも血が流れていた。
うぁあ、と低い唸り声を上げながらおもむろに席を立つ野阪。
だが、混乱してその場でフラフラと立ち尽くしてしまう。
そこで髪を掴む涼介。
「人の話を聞かない耳だ。なくてもいいだろ」
苦しむ野阪に追い打ちをかける。
「ーーそうだな」
同調する英人も立ち上がる。
脅える野阪と目が合うと、右耳を押さえる手の甲の上から容赦なく殴りつけた。
痛みに気を取られていた野阪は、無様に床に倒れた。
教室後方のロッカーの前のスペースに倒れる野阪。
唖然とする女子生徒の悲鳴とともに、そばにいた生徒がみな前方の黒板の付近に逃げていった。
英人と涼介を残して。




