序 ーー 藤村 若菜 ーー (6)
小さいながらも強い威圧感を放つ若菜に、怯まず向かい合った。
ここで逃げちゃ本当に惨めだ。
突っかかったことか、予想外な態度をしたせいか、若菜は面食らった様子で唖然となった。
束の間、全身を纏っていた棘が抜けたみたいに危うく小さく見えた。
優弥としても、本心から飛び出た言葉。
目を背けるわけにはいかなかった。
ぞんざいに若菜は息を吐き、
「無理よ、そんなの」
「それは……」
「余計なことしないで」
怪訝に吐き捨てる若菜は優弥を睨みつけた。
「どうせ、無理なんだから……」
気まずさから目を逸らし、遠くを眺め拒絶する若菜。
こちらも自信を持って止めるべきだったけれど、黙り込んでしまった。
もっと上手く踏み留まらせるべきだったけれど、躊躇しているなか、若菜は鼻を擦り、何かを思案し、
「ーーじゃ」
己の未熟さに顔を伏せていると、短い若菜の声が散る。
えっ、と顔を上げようとすると、誰かがアスファルトを蹴って遠離っていく音が鼓膜を遮る。
「それでもーー」
止めるから。
と言いたくて顔を上げると、それまでに眼前にいた若菜の姿はそこにはいなかった。
駅から出てきた帰宅途中のサラリーマンらしき人らが通路を横切っていた。
またやる気か?
本気でそんなこと言ってるのかよ?
問いたいことは山ほどある。
もちろん、悪いことなんだって責めたい。
しかし、若菜はそこにいない。
優弥の体に渦巻き、支配するのは後悔だけ。
胸を締めつける苦しさを晴らすことはできなかった。
なんでだ?
どうして?
ふと、空を見上げてしまう。
「ーー本気か?」