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雨に疼く  作者: ひろゆき


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 六  12  ーー 拒絶 ーー  (12)


 金曜日の午後。


 いつもよりお見舞いに来る人が多いな、と感じていると、美樹は休憩所のソファーに谷口優弥が座っているのを見つけた。

 普段、制服姿ばかりだったが、今日は白シャツにジーンズと、ラフな格好でいた。

 それでも顔を伏せ、元気はないような印象を受けた。


「今度は彼か……」


 以前、同じ場所に藤村若菜が座っていたのを思い出し、ふと目を細めてしまう。

 ついナースステーションを出ていた。

 先日の若菜の様子が、優弥に近づくにつれ、蘇っていく。

 事実なのか不安は残っている。

 しかし、美樹は平静を装うことに努めた

 やはり、彼がそうは見えない。


「病室に行かないの?」


 優弥のそばに立つと、そっと声をかけた。

 すっと力なく顔を上げると、「あぁ」と力なく頷き、またうつむいてしまう。


 なんだろ。ここは悩んだ子が来るのかな。


 と笑ってしまうのを堪えた。

 

「どうかしたの?」

「なんか、あいつ、誰を見ているのかなって思ったんです」

「どういうこと?」

「最近、変なことを言うことがあったんです。僕に関係のないこととか。最初に来たときは、耳が聞こえないとか、目が霞むって言っていて、その影響なのかなって思っていたんですけど」


 それは、と言いかけ、美樹は言葉を呑み込んだ。


 その症状によって、入院が長引いていることも。


 そこで優弥は顔を上げ、若葉の病室のある方向を眺めた。


「自惚れてたのが情けないですね。急に下の名前で呼んでもらえて」

「……ユウくんって?」


 思わず先に言ってしまった。すると優弥は驚き、


「はい。でも違っていたんですよね。この前、来るなって拒まれたんです。病室に入ろうとしたら、泣き叫ばれて……」


 そこでまたうつむき、そのまま両手で頭を抱えてしまった。


「……まるで、なんか、脅えられていたんです。恐れられてるように……」


 弱々しく嘆く優弥にハッとしてしまう。


「……それって」


 襲われそうになったから?


 とは口が裂けても言えず、唇を噛んだ。

 しかし不審に思えたのか、優弥はじっと美樹の顔を伺っていた。


「……それって、あなたを誰かと勘違いしてるとか? 彼女、目が霞むって言っていたから」


 咄嗟に噓をついた。


 先日の若菜の言動をすべてを伝えれば、さらに優弥を傷つけてしまいそうで。

 それでも、美樹の微かな望みも含まれていた。

 できれば、この二人にはこんな溝を掘ってほしくない。

 若菜の勘違いであってほしいと。


 ーーでも。


 襲われた、という言葉の真意がわからない今、胸に竦む違和感は拭えない。

 すると、思いついたように、優弥は小さく頷いた。


「……そうなのかな。だから、あのときあんなことを」


 寂しげに話す優弥に、美樹の息は詰まる。

 もしかすれば、若菜はすでに同じことを優弥に伝えていたのか、と。


「……あいつ、誰かと学校に行くつもりだったみたいで。でも、なんで小学校なのかなって……」

「……小学校?」


 そこでさらに思い詰めてブツブツと呟き、何かを考え出した。

 どうしたの? と聞いても、反応してくれず、まだ悩んでいた。

 ただ、美樹も胸がざわついてしまう。

 “小学校”が何かを訴えているみたいに。

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