序 ーー 藤村 若菜 ーー (5)
白状したことで責任を放り投げたって言いたいのかよ?
若菜の態度は一変した。
笑ったことで緊張が解けたのか、メガネのブリッジを触ると、口角を吊り上げた。
何かを企んでいるような、不穏な雰囲気、張り詰めた空気に優弥は萎縮してしまう。
こいつ、本当に何かしてるのか?
一瞬、学校で広がる陰口が本当なのか、と疑い、唇を噛んでしまう。
それだけの威圧感が若菜にあった。
優弥にしてみると、別に咎めるつもりなんてない。
ちょっとした好奇心が体を動かしていただけ。
だから若菜の態度に困惑していると、若菜は面倒そうに唇を舐め、
「別にいいじゃん。たいして悪いことじゃないでしょ。そんなに高い物を盗もうとしたわけじゃないんだし」
悪びれる素振りもなく、開き直った態度で揚々と言い放ち、首を傾げた。
耳を疑ってしまい、瞬きが止まらない。
本気で言ってんのか、こいつ。
辺りは人通りが多くなっていた。
そんななかで冗談なんて言うとは思えない。
内容から臆すると思っていたけれど、まったく悪びれない。
目まいが起きそうだ。
いや、呆れてしまう。
「悪いことじゃないって、本気で言ってんの?」
ようやく絞り出した反論は、ありきたりなセリフでしかなく、空回りしてしまう。
何よりも、普段の若菜とは懸け離れていた。
普段から冷めた様子であったけど、今はより冷たそうだ。
「……わかってるって、言ったら」
冷徹な返事と同時に、若葉の眉が歪み、表情が引きつった。
「だったら……」
「つまんない。真面目すぎよ、まったく。いいじゃん、別に」
反論が続かず、言い淀んでいると、優弥の心配を解き放つみたいに、若葉は吐き捨てた。
「……やめろよ、あんなの」
視線をドラッグストアに移し、弱々しく呟いた。
強く言えない。
「……明日、またやるって言ったらどうする?」
呆気に取られるなか、嘲笑うように若菜は目を細める。
胸を張り、威嚇する若菜。
よく見ると、右の拳をギュッと握っているのを見逃さなかった。
でも、強い眼差しが一瞬、揺らいで感じた。
どこか噓をついているの感じ、即答できないでいた。
………。
万引きがいい?
………。
見逃したほうがいい?
………。
何か気持ちが悪い。
「……だったら」
絞り出した声が風に掻き消されそうになる。
「……僕が止める」
静かに、それでいて強く言い切った。