六 10 ーー 拒絶 ーー (10)
鈍い音とともに、大きな塊が病院の屋上に転がる。
大きな塊は先ほどから「うっ」と鈍い音を発している。
昼前、夕立が降ったせいか、固い床は完全に渇いてはおらず、塊に汚れを滲ませていた。
涼介はふと空を見上げる。
六月といえど、気温は高く、肌はすでに夏だと勘違いしそうに蒸せている。
また汗ばむ季節が近づくことに苛立ち、うずくまる塊に怒りをぶつけ、大きく蹴り飛ばした。
塊は屋上の床に横たわる。
塊は鈍い唸り声を洩らした。
「さてと、そろそろ喋れよ。さっきのはなんなんだ?」
横たわっていた塊は野阪渉。
若菜の病室から引きずり出し屋上に出ると、そのまま容赦なく涼介は蹴り続けていた。
野阪の顔は腫れ上がり、鼻血が頬を真っ赤に汚していた。
もう何発も拳と蹴りを全身に受け、立つ気力さえ失い、無様に涙を流していた。
「答えろっ」
仰向けに寝そべり、夕刻の茜空を眺める野阪の胸を、涼介は踏みつけた。
「涼介、それぐらいにしとけって。それ以上すれば、喋れなくなる」
「はぁ? これでも喋れるように手、抜いてるんだぞ。感謝の一言ぐらい言えってんだ、このゴミが」
見かねた英人首筋を掻きながら制止するけれど、涼介は釈然とせず、舌打ちをした。
腰に手を当て、面倒そうにかぶりを降る涼介を制する。
英人は野阪のそばに近寄ってしゃがみ込み、笑みを浮かべる。
暴力を止めたこと、屈託ない笑顔に安堵したのか、野阪から緊張が緩んだ。
刹那、英人は野阪の髪を引っ張った。
英人眉を吊り上げ、表情が険しくなる。
「助けてもらえるなんて、甘ったれるなよ。そんな気はまったくないんだ。答えろ」
期待を打ち砕くように恫喝した。
野阪ぎ恐怖に目を見開いたのと同時に、涼介が勢いよく腹を踏みつけた。
咳をこぼし、頬を歪める野阪。
今度は英人も止めなかった。
頬を殴りすぎたのか、野阪の口元が上手く動かなかった。
それでも二人して無言の圧力をかけると、観念したのか、口元が動いた。
「あいつ…… は人…… 形なんだ」
「ーー人形?」
「……そうだ。藤…… 村は、人形なんだ。人形をどう…… しようか…… 勝手だろ……」
「その言い方だと、藤村に何をしても許されるって言い方だな」
病室での光景が脳裏に浮かぶ。
何をしようとしてたかなんて、容易に理解できた。
もちろん、それを若菜が拒んでいることも。
さらに英人が髪を引っ張ると、頬を歪めながらも、強がって口角を上げた。
「藤村さんはお前の人形だって言うのか?」
「俺の? ……バカ言うな。俺のじゃない……」
悪びれる素振りもなく話す野阪にさらに苛つき、涼介と顔を見合わせた。
いかがわしさがより深まる。
「じゃぁ、誰だ?」
「紹介してやろうか? 女を融通してもらーー」
脇腹を涼介が蹴る。
これまでになく強く。
「お前から質問する資格なんてない。聞いたことだけ喋れ」
涼介の一蹴に、野阪は懸命に脇を押さえた。
「……柳田…… 優だよ」




