六 7 ーー 拒絶 ーー (7)
浜崎美樹にとって、夜勤が続くと、どうしても筆圧に力が入ってしまう。
慣れているので、眠たいわけではないけれど、意識を集中したいために。
それだけ疲労も積もっており、早く休息をしたい。
だが、デスクの上の仕事がそれを許してくれない。
学生のころなら、簡単にサボれたんだろうな、とペン先でカルテを突いていると、ナースステーション前の廊下をゆらゆらと体を揺らして歩く人影を見つけた。
ーーユウくん?
と思わず若葉を真似て美樹は眉をひそめてしまう。
通りすぎたのが制服姿の谷口優弥だと気づいて。
どこか思い詰めた様子で、足早にエレベーターホールに向かう姿を怪訝に思い、ふとナースステーションを出てみた。
ただ、すでにエレベーターに乗り込んだのか、優弥の姿はすでになかった。
「……何かあったの?」
誰に問うわけでもなく、声を彷徨わせ、すぐに若菜の病室の方角を眺めた。
ほんの一瞬であっても、優弥の様子がおかしかったのは伝わってきた。
まだ残っている仕事はあった。
それでも胸騒ぎに襲われ、病室に向かってしまう。
藤村さん、とノックして扉を開いた瞬間、若菜の様子に美樹は困惑してしまう。
若菜はベッドの上で膝を抱えてうずくまっていた。
どこか震えている様子に、ただならぬ雰囲気を察し、すぐに駆け寄った。
「ねぇ、どうしたの、藤村さん」
そっと肩に手を触れ、顔を覗き込む。
微かな震えが手の平に伝わる。
しばらく若菜はうずくまったまま。
何度か呼びかけに気づき、美樹の手に手を触れ、ゆっくりと顔を上げた。
目が合った若菜に、胸を締めつけられる
若菜は頬を紅潮させ、泣いていた。
頬に一筋の涙を流して。
突然話しかけられてか、動揺してしまったのか、唇を噛む若菜。
美樹は何も言わず頷き、若葉を落ち着かせた。
震えが治まると、美樹はベッドの脇にしゃがみ込み、若菜を見上げた。
道に迷い、脅える子供を諭すように目を細め、若菜の細い手をギュッと両手で握った。
「どうしたの? 何かあったの?」
細くても力強い温もりが伝わってくる。
それでも若菜の目は泳いでいた。
じっと待っていると、若菜は濡れた頬をそっと手で拭い、静かに息を吐いた。
「……れた」
「ーーえっ?」
「……われたんです……」
短い言葉が吐息とともに繋がっていき、すべてが繋がったとき、美樹は耳を疑い、驚愕してしまう。
「……ユウくんに襲われた……」




