六 3 ーー 拒絶 ーー (3)
聞き覚えのない声。
切羽詰まる声に振り返る間もなく、優弥の横を人影が通りすぎた。
素早い影はベッドへと近寄った。
ーー誰?
「若菜っ、どうしたのっ。何があったのっ」
若菜に駆け寄ったのは一人の女の子。
淡い栗色に染められたショートボブの髪を揺らしながら、若菜に寄り添う。
脅えから丸まる若菜の肩を必死に揺らしていた。
優弥らと同年代の女の子。
知らない制服を着ていた。
「若菜? ねぇ、若菜」
女の子の呼びかけに、次第に若菜の震えは治まっていく。
ゆっくりと上げた顔が、女の子を確認する。
「ねぇ、何があったの?」
「ーー美桜……」
女の子の顔を見ると、すぐに目を見開き、そのまま助けを請うように抱きついた。
「ユウくんとはもう……」
まるで透明人間になり、ドラマの一場面に放り込まれたような錯覚を抱いた。
病室に優弥の居場所はない。
優弥を置き去りにして、二人の時間が流れている。
「……ユウくんって、柳田くんのこと?」
美桜、と呼ばれた女の子は、髪を掻き上げ、若菜に問いかける。
若菜は美桜に抱きついたまま何も話そうとはせず顔をうつむかせ、美桜は若菜の背中を擦っていた。
「あの、すいません」
そこでようやく、美桜は優弥に顔を向け、声をかけた。
時間が動き出した、という安堵はなかった。
やはり、というべきか、美桜はいかがわしく優弥を睨んだ。
どこか軽蔑されているみたいな圧力に負け、反論できず、目を背けてしまう。
「すいません。今日は帰ってもらえませんか」
申し訳なさげに木霊する声。それでも言葉の節々には棘みたいな敵意が纏っており、気持ちを圧迫してくる。
逆らえなかった。
優弥は額を押さえ、肩との二重の痛みを堪えつつ頭を下げた。
悪いことなんて一つもしていない。
責められる理由なんてない。
渦巻く疑念が頭をよぎるけれど、それらすべてが若菜に拒絶されたことで消沈してしまう。
息が苦しくなるなか、結局、若菜とは顔を見合わせることもなく、病室を後にした。




