六 1 ーー 拒絶 ーー (1)
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少し苛立ちを優弥は抱えていた。
最近、英人らの付き合いが悪くなっていたのだ。
確かにバイトや愛梨との遊ぶ時間が優先されるのも理解している。
それなのに、「行ってこい」や「病院は?」と茶化すような言い方ばかりされると苛立ってしまう。
素直に自分の用事が優先だと言ってくれればいいのに。
ただ、「うるさい」とぞんざいに返しても、病院へ向かっているのは否めないのだけど。
それでも、病院に来るのは久しぶりな感覚になっていた。
今日は何もせがまれてないよな。
エレベーターのなか。
壁に凭れながら自然と笑みがこぼれてしまう。
五階に到着し、手ぶらだとまた文句が飛んでくるかな、と覚悟しながらも病室へと向かった。
ナースステーションの前を横切るとき、美樹の姿が見えて、軽く会釈した。
また変なことを言われないか、と気が気ではなかったけれど。
病室に到着してドアをノックすると、「はい」との返事に、「入るぞ」と扉を開いた。
「今日は何も買ってきてないからな」
と先手を打ち扉を閉め、顔を上げると、氷で背中を撫でられたみたいな、奇妙な違和感に胸がざわついてしまう。
異変を探すべく視線を移した。
若菜はベッドの上で掛け布団をひざにかけ、膝を抱えて身を丸めていた。
若菜の姿を見つけ安堵した瞬間。
何も言わず、若菜は唇を噛み、ギロリと物々しい雰囲気で優弥を睨んだ。
「どうした? 何かあったのか?」
またふざけているのかとベッドのそばに近寄ると、膝を抱える若菜の手に力がこもるのに気づき、足が竦んでしまう。
「大丈ーー」
「ーー来ないでっ」
大丈夫か、と右手を差し出そうとした瞬間、若菜は急に叫喚した。
金槌で頭を殴られたような激痛が全身を走った。
骨をバラバラに砕かれ、その場に打ち砕かれてしまいそうなのを堪えていると、若菜はより身を丸める。
掛け布団を引き寄せ、後ろの壁に背中をぶつけるぐらいにベッドの上で下がる。
顎を引き、険しく睨みながら。
あたかも優弥に脅えるみたいに。
なんで?
まったく理解できない。
なぜ拒絶されてしまうのか掴めない恐怖に右手が重力に負けて下がってしまう。
恐怖をごまかそうと、何かを掴みたくなり、握ったり開いたりを繰り返してしまう。
「……藤村、お前……」
首を絞められているみたいな苦しさに耐え、名前を呼ぶけれど、若菜はより強く首を振った。
「ーー来ないでっ」
刹那、若菜は手元にあった枕を優弥に投げつけてきた。
優弥の顔めがけて投げられたのを、反射的に振り払い、枕は床を床に落とした。
なんで?
なんで、急にこんな拒絶されなきゃ……。
優弥に襲うのは困惑だけであった。




