表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨に疼く  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/74

 五  3  ーー 恋人 ーー  (3)


 咄嗟的に会釈をした。


 これまで何度か作業している姿を見たことはあった看護師。

 話す機会なんて当然なく、ナースステーションを通りかかったとき、ふと目が合うと優弥は頭を下げた。


 浜崎美樹。


 と胸の名札に記されていた。

 背丈は優弥より少し低く、色白で見た目からして細いな、と思える女性であった。

 目がアーモンドのようなつり目で、じっと見詰められると、萎縮しそうであったけれど、実際にそう感じたことはない。

 左目の下に泣きぼくろがあるのが特徴で、いつも長い髪を後ろで縛っていた。

 若葉とは違う、凜とした雰囲気があり、だからこそ突然声をかけられ、驚いてしまった。

 それでも、どこか若葉との関係を茶化すような、英人に似た空気も否めなかった。

 ただ、美樹が去り際に自分のことを「ユウくん」と呼ばれたことに多少の違和感も否めない。


 それだけ気さくな人物なのだろうか。


 そんなことを抱きながら若菜の病室へ向かった。


「ったく。暇なんだね」


 病室に入るなり、ベッドに座り込んでいた若菜は挨拶代わりに嫌味をぶつけてきた。


「悪かったな」


 頬を殴るような嫌味を、苦笑しながら軽く受け流せるようにはなっていた。

 涼介らに勧められ初めて来たときには緊張しかなかったが、幾分、今は平静でいられた。

 何より、若菜の雰囲気も明るくなったと、優弥自身感じていた。


「んなこと言うなら、頼まれていたプリン、やんねえぞ」


 言いながら、ベッドに備えつけられたテーブルに、小さな紙袋を置いた。

 すると、若菜の目が綻んだ。

 実は、前回の帰り際、「普通、お見舞いなら、何かあるんじゃないの?」と言われたのだ。

 確かに、それまで何もお土産を持参したことはなかったのだけれど、ちょっとイラつき、「どんな物だよ」と聞き直すと、「プリン」とリクエストされた。

 お土産を催促するだけ、大丈夫なのかな、と安心した。


 けれど、難題でもあった。


 リクエストされたのは、有名な洋菓子店のプリン。

 デパートの地下で販売されている、北海道の生クリームを使用したプリンだったので。


「嫌なら、持って帰るぞ」


 と、テーブルの上の紙袋を動かすと、


「何考えてんのよ。病人の前でそんなことをするのは、毒を飲ますようなものよ」


 と、宙に浮かぶ紙袋を掴み、強引に自分の胸元に引き寄せた。


「ありがと」


 …………。


 これまで、学校では若菜に近寄りがたい雰囲気があった。

 話しかけても、単調的な返事に収まるだけだった。

 でも、病室ではそんなことはなく、無垢な反応を見ていると、優弥の気分も晴れてくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ