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雨に疼く  作者: ひろゆき


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33/74

 五  1  ーー 恋人 ーー  (1)


            5



 患者に深く干渉してはいけない。

 誰に対しても、冷静で対応しなければいけない。


 浜崎美樹は自分なりにルールを定めていた。

 それも看護師としての勤めだと捉えていた。


 それなのに十日ほど前に自殺を試み、運ばれてきた藤村若菜という高校生に、少なからず干渉せずにはいられない。

 入院の理由が自殺と知らされたとき、学校でのイジメ何かが原因なのか、と憶測が深まってしまう。

 現に入院してから彼女にお見舞いに来た女友達を見たことがなかった。


 親身になってくる友達はいないのだろうか?


 そんな不安が積もるなか、ある男の子が姿を見せていたことに安堵していた。


 恋人はいたのかな、と。


 いつしか、「彼は今日は来るだろうか」と考えてしまうときもあった。

 ダメなんだ、と自重していた日の午後、体温の検診のためにナースステーションを出ようとすると、休憩室に藤村若菜の姿を見つけた。


「うん…… わかってる…… でも」


 休憩室はスマホが利用可能なスペース。

 手前の椅子に座り会話する若菜。

 背中を向けていたので表情は伺えなかったが、どこか神妙な声に聞こえたのは気のせい?

 一片の気がかりを残りつつも、カルテを胸に抱き、病室へと向かった。




 一通りの検診が終わり、記入事項を確認しながら歩いていると、まだ会話は続いており、若菜の小さい背中は丸まっていた。


「……小学校に…… でも、あそこは…… もう無理」


 邪魔をしてはいけないとそのままナースステーションに戻るつもりでいたが、角に差しかかったとき、会話は終えたらしく、テーブルの上にスマホを置いた。


「恋人に会いたいって催促?」


 思わず休憩室に入り、つい茶化したくなってしまった。


 自重しなきゃいけないのに。


 抑えられなかった。

 ビクッと肩を揺らして振り返る若菜。

 突然話しかけた美樹に驚き、恥ずかしそうにすぐ目を逸らした。

 入院当初、精神的にも弱っていたのか、ずっと表情は険しかったけれど、今は落ち着きを取り戻し、明るくなっていた。

 頬の辺りが丸く、無垢な眼差しに、高校生には似合わない幼さが逆に可愛くて、美樹には羨ましくもあった。


「そんなんじゃないですよ」


 かぶりを振り否定する初々しさがまた、美樹には面白くもあった。


「あ、そうだ。彼、名前はなんて言うの?」


 これまで何度か彼を見かけたが、直接話したことはなく、名前までは知らなかった。

 ただ興味本位で聞いたつもりでいたが、若菜は顔を伏せた。


「……くん」


 聞くべきではなかったのか、と急に空気が重くなり、気まずくなっていると、若菜のか細い声が途切れながら耳に届いた。

 

「ユウくんって言うの?」


 かぜに舞ってしまいそうな声を拾い上げると、若菜は顔を上げた。

 その表情には明るさが戻り、目を細めて。


「……谷口くん…… って言います。谷口……

 優弥」


 それで「ユウくん」と、納得していると、通路の先のナースステーションから、主任が自分を呼ぶ声が届いた。

 口調からして急かしている。

 急がなければ。

 つい背筋が伸び、眉間にシワを寄せた。


「ごめん。じゃぁね。サボってるのバレたみたいだし」


 後ろに聞こえないよう、口元に手を添え、小声で伝えると、そそくさと休憩室を出た。

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