四 2 ーー 痛み ーー (2)
若菜が入院しているのは、優弥らが住む県内においても、最大規模の総合病院。
正面入口を通り、通院患者の受け付けロビーを横切った。
午後六時をすぎたところ。
外来診察時間も重なり、待ち合いの椅子は満杯になっており、受け付けもいくつか列を帯びていた。
優弥は人が行き来するロビーを執拗に瞬きをし、鼻を擦りながら足早に進んだ。
病院独特の消毒液の匂いは苦手だった。
鼻を刺す匂いが痛く、どこか注射のイメージがすぐに浮かび、緊張して胸が締めつけられてしまう。
足が萎縮してしまいそうなのを懸命に堪え、エレベーターホールへと向かった。
涼介らに貰った紙には病室は五階であると書かれていた。
何棟かに分かれていた案内板を確認して、B棟に辿り着き、そのままエレベーターホールに出た。
ちょうど三つあるエレベーターの一つが来たので、乗り込む。
五階のボタンを押し、しばらくすると足元が突き上がるような軽い衝動と同時に動きだした。
そこで壁に凭れ、息を吐いて緊張をごまかした。
ここはいくぶん消毒液の匂いが薄い気がした。
目を閉じると、憎らしい顔を浮かべた英人に涼介の姿が浮かんだ。
ーー 病室の前まで一緒に行ってやろうか?
と、病院が苦手な優弥を知って、茶化す二人に対して苛立ちが蘇る。
もちろん、それもある。
それでも今は緊張感がすごい。
……でも。
「バカにするな」
ふと吐き捨てると、エレベーターは五階へと着き、扉が開くと再び緊張が強まる。
消毒液の臭いが襲ってきそうだ。
躊躇する足を一歩踏み出した。
たまらず鼻を擦り、辺りを見渡した。
ホールのエントランスはベッドをそのまま運び出すため広く取られていた。
通路は右側に一通だけあった。
鼻を擦りながら、吸い込まれるように通路を進むと、右手側が小さく開け、自動販売機とオレンジ色の革で覆われた楕円型のソファーがある休憩所となっていた。
入院患者らしいパジャマを着ていた年配の女性がタバコを吹かしている。
その横を通ると、通路はまた左右に分かれ、正面は広間となっており、奥に大きなテレビ、テーブルが三列に並べられ、綺麗に椅子が仕舞われていた。
何かのイベントなどに使われるのだろうか。
今は誰もここにおらず、閑散としていた。
その角はナースステーションとなっており、カウンターの奥には年配の看護師一人に、若い看護師が二人何か作業をしていた。
誰かに聞くべきか躊躇していると、左は相部屋、右は個室になっているらしい。
一度紙を見直すと、505号室となっていた。
手前の病室の番号から、若菜の病室は個室らしい。
さらに右の通路に入ると、左側に病室が並び、右側は風呂などの設備があった。
501…… 502……。
「……505」
505号室の扉の前で止まった。
扉の右上に名前が掲げられ、「藤村 若菜」と記されていた。
やばいな……。
また緊張してくる……。




