四 1 ーー 痛み ーー (1)
4
藤村若菜が自殺した。
耳を疑いたくなる衝撃が全身を駆け巡った。
信じがたい事実を突きつけられたのは、若菜と話夜にした二日後の朝。
担任から連絡事項として知らせられた。
それでも、深くまでは話さす、淡々と「事故で入院した」と濁られていた。
このとき、あまりにも衝撃すぎたのか、動揺が邪魔をしたのか、担任に対して強く事実を追求する生徒はいなかった。
優弥も黙るしかなかった。
しかし、話はたちまち噂として膨らみ、風のごとく広がり、生徒に蔓延していたのである。
話がどれだけ歪んだのかは調べようがなかった。
それを承知した上で、担任も話を濁していた。強く否定をすれば、刺激を受け、より歪みは酷くなると思ってか。
若菜は幸いなことに、命に別状はなかった。
入院していると知って二日。
この二日は衝撃が大きすぎて、優弥はどこか気力が失せていた。
どうも体が重たい。
得体の知れない縄が体を縛り、自由を奪われているみたいだ。
放課後、ほかの生徒が部活などに出たりして、教室に残っていた。
これと予定はないのだけれど、動くのもどうも億劫になり、頬杖を突いて無造作に窓の外を眺めてしまう。
「暇そうだな。なんだったら、病院に行ってみたらどうだ?」
椅子に凭れ、アクビをしていると、教室の扉が開かれ、英人が入って来た。
「何言ってんだよ、なんで僕が藤村の……」
「誰も藤村さんとは言ってないぞ」
咄嗟に否定をしようとすると、英人の後ろから涼介が顔を現した。
「面倒な奴だや。バレバレだぞ」
何かを企むように口角を上げた英人が追い打ちをかける。
一気に喉の奥が締めつけられ、咳が出そうになる。
「バカ。大体、どこの病院かも知らないんだし」
「ほんと、優弥ってわかりやすい奴だな」
咳を堪え、顔を背けると、窓の外を眺める優弥に、二人が机のそばに寄ってくる。
優弥の前の席の机に英人、右隣の机に涼介は座り、腕を組んだ。
「はい、これ」
照れくささから仰け反り、ぞんざいな態度を示すと、「面倒くさっ」と文句を吐き、英人が一枚の紙を机に置いた。
「さっき、香川に聞いてきた。藤村さんの入院してる病院とその病室」
香川とは、三人の担任のこと。
戸惑いなら机を眺めていると、涼介が補足した。
「でも正直なところ、面会も難しいかもな。噂が本当だったらな」
「香川の様子だと、病院を教えるのもなんか躊躇してる感じだったしな」
二人は顔を合わし、渋い顔で首を傾げていた。
「じゃぁなんで?」
目の前の紙と、二人の反応から疑問になり、聞き返してみた。
「それはこいつが頼み込んだからだよ」
そこで嬉しそうに口角を上げ、クイッと英人は涼介の顔に親指を差した。
涼介は「うるさい」とうつむいた。
優弥は唖然としてしまう。
面倒くさがりの涼介がそんな行動することに、唖然としてしまう。
二人の好奇な眼差しを感じたのか、邪魔くさそうに咳払いして顔を上げ、
「気になってるんだろ、行ってこいよ」
涼介は顎をクイッと促し、紙を指した。
最初は茶化していたけれど、彼らなりの厚意である。
優弥は素直に紙を掴み、顔の前に引き寄せた。
「うん。行ってみるよ」
二人の厚意を無駄にはしたくない。
ここは素直に受け取った。
でも、恥ずかしさも残っていた。
「お前らは?」
少しでも恥ずかしさを紛らわしたくて誘ってしまう。
「面倒くさいっ」
と涼介は即答。
「お前らの邪魔をしないって」
とわざとらしく英人は首を竦め、手を大袈裟に振って断った。
二人の態度に一瞬感謝したが、違ったらしい。
ただ茶化すためだけの行為だったのか、と疑ってしまう。
それでも。
「ありがと」
と自然と笑みがこぼれた。




