三 5 ーー 危うい声 ーー (5)
「なぁ、これは俺に対するイジメなのか?」
隣にいた涼介が釈然とせず、頬を歪ませた。
放課後、英人に半ば強引に誘われ、連れられたのは、街にあるショッピングモール。
そこのスニーカーショップであった。
英人がほしいスニーカーを買うべく、付き合わされたのだ。
優弥としては、特にほしい物はなかったのだが、これと言った予定もなかったので付き合っていた。
赤いスニーカーを手に取り、買ってもいいかな、と揺れていると、ドサドサと近寄って来た涼介が腕を組み、拗ねていたのである。
「俺はまだ、バイト代が入らなくて、ほしいやつが買えないんだぞ。それも買えるかどうかわからない人気のやつなのに。それなのに、ここに連れて来るのは拷問か? 売っていたらどうするんだよ?」
「僕にぼやくなって。いいじゃん、見てるだけでも」
そわそわと、後ろで腕を組んで行き来する涼介を茶化すが、聞く耳を持ちそうにない。
普段、冷静な奴なんだけど、スニーカーに対しては動揺する奴。
唇を噛み、今にも湯気が出そうなほど、頬を紅潮させている。
優弥の方が疲れそうである。
「考え方を変えなよ。下見だってさ」
煮えたぎる涼介を諭すように、近寄ってきたのは英人。
三人のなかでは一番背が低く、子供っぽいところもあったけれど、涼介の肩をドンっと大げさに叩く大胆さも持ち合わせていた。
「俺がほしいのは人気のやつなんだよ。売っていたら、すぐに買わないと二度と会えないような。そんなのを目の前にして、下見で終わり、なんてできるかっ」
もちろん、涼介には通用せず、ふて腐れて顔を背けてしまう。
それでも、英人は強引に肩を叩き、「お疲れさま」と嫌味をこぼせる強引さもあった。
機嫌を曲げる原因が自分にあると知りつつも、動じずゲラゲラと笑う姿には感心してしまう。
「いいじゃん、下見ができて。ほしいのが決まってるなら、サイズを見ておけばいいんだし。サイズさえわかれば、最悪、ネットでも買えるだろ」
英人は得意げに店内を指差した。
「もし、丁度のがあったらどうするんだよ。今日、俺はあんまり金持ち合わせてないぞ」
「それは涼介次第だよ。大丈夫だって、涼介は結構意志強いんだから。面倒くさがりでもな」
違うか? という口調で首を傾げる英人。
「面倒くさがりは余計だよ」
どうも丸め込まれているようで、一言こぼす涼介。
釈然としない様子ながらも、体を店内に向け、渋々奥へと足を進めた。
苛立ちのオーラをまだ放ちつつも、離れていく涼介の背中を見送りながら、上手いな、と改めて感心してしまう。
「優弥はどうするんだよ?」
涼介が棚の陰に隠れたのを見届け、英人が聞いてくる。
「僕は今日はいいよ……」
手にしていたスニーカーをラックに戻すと、不意に体の正面を店の外に向けた。
通路を挟んだ先の、小さな雑貨店に目が移っていた。
「ーー優弥、お前って、藤村さんと付き合ってるのか?」




