三 4 ーー 危うい声 ーー (4)
「ーーで、どうだったんだよ、今日は」
胸にこもる疑問が震えそうにこぼれてしまう。
大きな溜め息に紛れ、若菜は「うん」と素直に頷いた。
「さっきまで危なかったかな。でも、電話をしたら気持ちは落ち着いたみたい」
「そっか」
またしても唇を噛み、顔を曇らせる若菜。
すぐに本題に入ってしまったからか、気分は滅入ってしまったらしい。
顔をうつむかせる姿に、かける言葉に迷ってしまう。
気まずさを誤魔化したくて、髪をクシャッと掻き乱してしまった。
それでも、少しでも自分を頼ってくれた気がし、気持ちは多少晴れてくれた。
だったら、学校にも来いよ。
と、つい内心毒づいていると、若菜はふと胸ポケットに手をずっと当てていた。
どこか胸の痛みを堪えているみたいな仕草に、目が止まる。
胸ポケットには、一本の赤いボールペンが差されていた。
これまでの若菜の姿がふと脳裏を駆け巡る。
確か、いつも胸ポケットにペンを差していたはずだ。
「そういえば、普段から胸ポケットにペンを差してないか? なんで? 筆箱に入れておけばいいじゃん」
ふと不思議に感じ、聞いていた。
この暗い雰囲気を変えたかったのもあった。
突然、まったく違う話題を振られ、顔を上げる若菜。
話が掴めず、キョトンとして瞬きをしていた。
そこで優弥は小さくペンを指差した。
「あ、これ? これはうん、習慣かな」
「習慣ってなんのだよ」
「護身用、かな」
「護身用って? はい?」
本音を言っているのか疑いたくなるほど、若菜はおどけて首を傾げた。
何かこだわりでもあるのか期待していたので、呆気に取られてしまう。
「護身って本気かよ」
「そだね、噓」
あくまでおどける姿に優弥の方が唇を噛んでしまった。
なぜだろう、本心を隠すために、わざとふざけているみたいに見えた。
「ーーでも、電話で話したことは本当だよ。本当に今日は危なかった」
呆れてかぶりを振ろうとしそると、一変して真剣な眼差しを優弥にぶつけてきた。
急に空気が張り詰めた気がした。
一気に全身に刺をまとったみたいな危うさが漂い、緊張が走った。
つい背筋を伸ばしてしまう。
「……だから…… その、ありがとね」
………。
耳を疑った。
また邪険にあしらわれるのか、と身構えそうになると、微かな謝意の後、照れくさそうに顔を背ける若菜。
優弥は状況が掴めないまま、呆然と立ち尽くし、
「あ、うん」
と、情けない返事しかできなかった。




