三 1 ーー 危うい声 ーー (1)
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ふざけるなよ……。
若菜から連絡があり、万引きを止めない彼女に対して、こみ上げるものはあった。
声には出せない。
声にするだけの勇気はなかった。
振り回された悔しさ、苛立ちが胸を掻き毟っていく。
それでも、胸を押し潰そうとするなかに、痛みを軽くするものも微かにあった。
悔しさの陰に隠れ、自分を頼ってくれている気がしていた。
微かながら嬉しさがあることも否めなかった。
胸が熱くなるものがあったのだ。
例え、勘違いだとしても。
だからだろうか。
若菜に対しての苛立ちよりも、不安を強ませる要因が爪を立てていた。
愛梨である。
あいつは油断ならない奴だ。
あの日、偶然ではあるけれど、嵐のように去って行った愛梨。
その一連は恋人の英人にも伝わっているはず。
嬉しそうに話を盛りに盛って話していたはずだ。
それを痛感したのは、翌日の朝。
英人は不気味なほどに満面の笑みを献上されてしまうと。
肩を叩かれても何も言い返せず、大きくうなだれてしまった。
吐き捨てられない苛立ちをどこに捨てるべきか躊躇してしまう。
英人はその様子を楽しんだ後、自分の席にいる若菜を眺め、また優弥に視線を戻して何度も頷いた。
その行為がすべてが伝わっているのを物語っていた。
どうせネチネチと茶化されるのだと覚悟を決めていたのだけれど、英人はそれ以上は静かだった。
どこか拍子抜けでもあったけれど、英人の気遣いに安堵した。
意外ではあったけれど。
若菜に呼び出されて三日が経っていた。
学校で若菜に万引きを咎めることはしなかった。
その日、朝から空の機嫌は悪いのか、どんよりと重苦しい雲が立ち込め、太陽を隠していた。
今にも雨が降りそうなほど危うい。
それこそ、針を突けば破裂しそうだ、と眺めていると、教室の窓にポツポツと雨粒が当たり出していた。
小さな雨粒が次第に広がり、窓を滲ませていくと、気分まで滅入りそうだ。
降り出したか、と机に頬杖を突きながら文句がこぼれそうになった。
午後の授業はあと二科目。
優弥の苦手な科目が待ち構えていて、このまま眠ってやろうか、と机に突っ伏した。
休み時間に溢れる話し声が、睡魔を呼び込もうとする。
大きくあくびをこぼそうとしていると、ざわめきに紛れてスマホが鳴った。
学校にいる間に誰だろう、と体を起こす。
椅子の背もたれに背を預け、あくびを堪えながらスマホを眺めた。
若菜からである。
咄嗟的に教室を見渡した。
今日、彼女は学校で姿を見ていない。
直接連絡があることに怪訝に思いつつ「もしもし」と出てみた。
「……今日はちょっと無理かもしんない……」
開口一番、若菜の崩れそうなか細い声が耳を通った。
今にも途切れそうな声は、教室のざわめきと重なり聞こえ難い。
「ーーえっ? なんて?」
なんだろう。
急に喉の奥がいたくなっていた。




