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雨に疼く  作者: ひろゆき


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16/74

 三  1  ーー 危うい声 ーー  (1)

  

             3



 ふざけるなよ……。


 若菜から連絡があり、万引きを止めない彼女に対して、こみ上げるものはあった。

 声には出せない。

 声にするだけの勇気はなかった。

 振り回された悔しさ、苛立ちが胸を掻き毟っていく。

 それでも、胸を押し潰そうとするなかに、痛みを軽くするものも微かにあった。

 悔しさの陰に隠れ、自分を頼ってくれている気がしていた。

 微かながら嬉しさがあることも否めなかった。

 胸が熱くなるものがあったのだ。

 例え、勘違いだとしても。


 だからだろうか。

 若菜に対しての苛立ちよりも、不安を強ませる要因が爪を立てていた。


 愛梨である。

 あいつは油断ならない奴だ。


 あの日、偶然ではあるけれど、嵐のように去って行った愛梨。

 その一連は恋人の英人にも伝わっているはず。

 嬉しそうに話を盛りに盛って話していたはずだ。

 それを痛感したのは、翌日の朝。

 英人は不気味なほどに満面の笑みを献上されてしまうと。

 肩を叩かれても何も言い返せず、大きくうなだれてしまった。

 吐き捨てられない苛立ちをどこに捨てるべきか躊躇してしまう。

 英人はその様子を楽しんだ後、自分の席にいる若菜を眺め、また優弥に視線を戻して何度も頷いた。


 その行為がすべてが伝わっているのを物語っていた。


 どうせネチネチと茶化されるのだと覚悟を決めていたのだけれど、英人はそれ以上は静かだった。

 どこか拍子抜けでもあったけれど、英人の気遣いに安堵した。

 意外ではあったけれど。




 若菜に呼び出されて三日が経っていた。

 学校で若菜に万引きを咎めることはしなかった。


 その日、朝から空の機嫌は悪いのか、どんよりと重苦しい雲が立ち込め、太陽を隠していた。

 今にも雨が降りそうなほど危うい。

 それこそ、針を突けば破裂しそうだ、と眺めていると、教室の窓にポツポツと雨粒が当たり出していた。

 小さな雨粒が次第に広がり、窓を滲ませていくと、気分まで滅入りそうだ。

 降り出したか、と机に頬杖を突きながら文句がこぼれそうになった。

 午後の授業はあと二科目。

 優弥の苦手な科目が待ち構えていて、このまま眠ってやろうか、と机に突っ伏した。

 休み時間に溢れる話し声が、睡魔を呼び込もうとする。

 大きくあくびをこぼそうとしていると、ざわめきに紛れてスマホが鳴った。

 学校にいる間に誰だろう、と体を起こす。

 椅子の背もたれに背を預け、あくびを堪えながらスマホを眺めた。


 若菜からである。


 咄嗟的に教室を見渡した。

 今日、彼女は学校で姿を見ていない。

 直接連絡があることに怪訝に思いつつ「もしもし」と出てみた。


「……今日はちょっと無理かもしんない……」


 開口一番、若菜の崩れそうなか細い声が耳を通った。

 今にも途切れそうな声は、教室のざわめきと重なり聞こえ難い。


「ーーえっ? なんて?」


 なんだろう。

 急に喉の奥がいたくなっていた。

 

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