一 4 ーー ただ、止めたい ーー (4)
ドラッグストアに入り、また独特な曲を鼓膜に響かせながら、一通り店内を回ることにした。
なんだろう。店内の曲を聴いていると、幼稚園のころに見た、子供番組のクマの着ぐるみが踊っているのを想像してしまう。
昨日、半ば強制的に買い物に来ていたのと違い、気持ちは幾分軽い。
だからか、そんなことを想像してしまい、昨日より曲調も楽しく感じてしまう。
買って帰った風邪薬に姉から文句を言われなかったことも影響しているんだろう。
昨日買わなかった炭酸水でも買ってみるか。
飲料水売り場に行こうとしていると、通路の角で足が止まる。
まっすぐ進めばよかったのだが、右の方角を眺めていた。
その先は日用品売り場。
ふとスマホを取り出し、時間を確認した。
午後五時を回っている。
体を反転させ、店内を見渡してみた。
次第に人の姿が増えているみたいだ。
それでも若菜の姿はない。
ここにいないのは、万引きをしないこと。
心配が杞憂であったこと、己の心配性が情けなくなり、かぶりを振るしかない。
唇を噛み、スマホをポケットに戻し、飲料水売り場に足を進めた。
新商品のマスカット味の炭酸飲料にするか、普段から飲んでる炭酸水にするべきか、棚の前で悩み、鼻を擦った。
失敗した。
後悔で唇を噛んでしまう。
昨日、この場には来ていない。
昨日ここに来て、どちらかを買っておけば、今日は残りの一本を買えていたではないか。
唇をしばらく噛み、悩んだ末に「よしっ」と新商品を手に取った。
新境地、と冷えた感触を手の平に受け、満足感に満たされていると、独特なテーマ曲が耳により響いた。
不意に顎を上げ、白い天井を見上げてしまう。
不思議とスピーカーを探していた。
自然と探しながら足が動き出していた。
ほしい物はすでに手の平にあり、用事が終わっていたのだけれど、足は止まらない。
なにかに導かれるみたいに。
向かっていたのは、日用品売り場。
リップクリームやハンドクリームが並んだ棚と、歯ブラシや歯磨き粉が並んだ棚が並んだ通路。
来ているわけないだろ。
と、変な期待を抱きつつある自分を罵ると、胸に石を投げられたみたいな、痛みとともに、ペットボトルを握る右手に力を込めた。
昨日と同じ場所に立ち、同じようにリップクリームを手にした若菜を見つけてしまった。
足を誰かに踏まれたみたいに、竦んでしまう。
若菜はじっと商品を睨んでいるように見えた。
ただ、横顔はどこか寂しそうに感じられる。
ペコッとボトルが音を立てるほど握っていると、足首にまとわりつく戸惑いを払い、優弥は足を踏み出した。
耳元で響く曲が今は雑音でしかなく、胸をざわつかせる音を掻き消すように足音を立てて歩を進めた。
苛立ちが冷静さを打ち崩していき、視界が霞んでいく。
耳元の髪を掻き上げる若菜。
横顔からは仰々しさが失われていた。
ズカズカと大股で歩み寄ると、大きくなる足首に気づいたのか、若菜は顎を上げ、こちらに振り向いた。
「やめとけって」




