表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
曳山祭り  作者: さかた けん
10/18

哀惜(五)

 母親の葬式はとても簡素なものであった。斎場に着いた時、いくつかの部屋で葬式が行われていた。斎場の案内人はそれらの部屋を通り過ぎ、冷気が漂う火葬炉の前に私を導いた。ここで葬式が行われるのだろうと私は直感した。


 斎場には、すでに母方のいとこの京子さんとその息子さんが来られていた。参列者はこの二人だけだった。


 私達がそろった頃をみはからって、坊さんがやって来て読経をはじめた。遺族が立ったまま読経を聞くという経験はしたことがなかった。読経を終えて母親に花束をたむけたあと、母親が眠る棺桶が火葬炉のなかに入れられた。どれくらいの時間が経っただろうか。途轍もなく神聖に感じられた。


 火葬炉から母親の遺骨が出てくると、担当者が慣れた手つきで金属を取り除き、ひとり一つずつ骨を骨壺こつつぼに入れ、そのあと遺骨を納めた骨壺を渡された。葬式はそれで終わりだった。


 後日あらためてお別れの会を催すということになり、京子さん達とはそこで別れて、私はタクシーを拾って帰路についた。


 家に着いてかつて母親を介護していた部屋に遺骨を運んだ。私は、遺骨を前にひとりぽつねんと座っていた。線香に火を灯しひとすじの煙が立ち昇る。まるで、母親が天国に召されていくかのようだ。


―あっという間だった。救急搬送してからもうすでに二年も経っている―


 母親が使用していた介護用のベッドは、レンタル業者がすでに引き取りに来てなかったが、ベッドが置いてあった日の当たらない畳の部分はその痕跡こんせきを残していた。私は、ベッドが置いてあったその痕跡のある畳の上に仰向けに寝て、母親のぬくもりを感じようとした。


―母さんはいつも天井を眺めていた。何を話しかけても、天井のある一点に視線を向けていた。天井を覆っている木の木目を眺めながら、母さんは何を思っていたのだろうか―


 仁美伯母が言うことには、若い頃母親は兄弟五人と一緒に富山から上京した。他の兄弟達は、母親が中学しか出ていなかったため、一緒に上京することを反対していたが、反対を押しきって強引に東京に出て来たらしい。


―母さんは、東京で生活をして幸せだっただろうか―


 中等教育しか受けていない母親には、殺伐さつばつとした東京で生活するよりも、あの静穏せいおんとした海の町で、親や兄弟達と一緒に暮らしていたほうが、母親にとっては良かったのではないかと私は思っていた。


読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ