(13)書簡〈9〉ファンデール国王 クロヴィス
( 13 )書簡〈 9 〉ファンデール国王 クロヴィス
親愛なる義兄上陛下
先日、オズワルド王太子殿下と会うことがかないました。
王太子が大使に扮するなど、大胆不敵が過ぎますね。見事に騙されました。お二人の企みは誰も予想できないでしょう。どこか憎めないのは、お二人の人柄でしょうか。
同封いたしましたのは、ロチェス・グラッセの果実です。
トルキア帝国では【孔雀の夢】とよばれる薬で、痛みを麻痺させ、外科治療を行うために用いるそうです。
カフカス海以東では【鴉片】と呼ばれています。
マゼランを宰相として側においてから一年。やっと実態が見えてきました。マゼランは、エルドラードのヘンリー王づてに商品を受け取り、聖教圏に流しているのです。
ヘンリー王の方はラームガーナで製造した【鴉片】の有効性を試すべく、キーシュに流していることも分かりました。
この劇薬について国内で騒ぎが起きなかったのは、マゼランの情報統制によるものです。彼は王妃の風刺文書をばら撒き、自身の悪行を覆っている。……断じて許せません。
今夜、カストーレ宰相大公よりお借りした秘密警察が動き出します。王都の治安は悪化している。マゼランが宮殿に残るとは思えない。近縁のローゼンベルク伯に頼ることは明白。聖王猊下にも同じ調査報告書を送りましたので、マゼランは聖王領に足を踏み入れた瞬間【タスカナ刑法】に基づき、罰を受けることでしょう。
今回、オズワルド王太子と直接話し、彼の考えを知ることができました。義兄上と私が集めた証拠を元に、エルドラード議会でヘンリー王に退位を迫る。三日後の議会で、ヘンリー王は玉座から追いやられるはず。
私は妹の婚約破棄を、オズワルド王太子は対話による制海権問題の解決を求めました。
お互いの利害は一致しています。後は、エルドラード議会が動くのを待つのみです。
王妃のお産が終わり、妹が離宮から帰ってくる頃には、決着がついていることでしょう。
……義兄上陛下、もし妹が大公を夫に望んだら、大公も妹を妻にと欲してくれたら、二人を娶せたいと考えております。
私は、散々ご心配やご迷惑をかけた義弟です。頼める立場でないことは重々承知しております。それでも、妹が健やかに笑えるのは大公の隣だけなのです。国王としても、大公の人柄は好ましい。彼の知識や技術はファンデールの助けとなるでしょう。
この婚姻が成立した暁には、大公にはアルザス地方全てを封し、ロレーヌ公爵位を授けるとお約束します。イシュルバートとしても、悪い話ではないと考えます。
荒れた国でお恥ずかしいことこの上ありませんが、どうかマクシミリアン大公を婿に頂きたい。良いお返事を期待しております。
クロヴィス




