(3)皇帝の贈り物
( 3 )
「エリザベート、この後の予定はどうなっている?」
デザートのマロングラッセが運ばれてくる頃、皇帝が尋ねた。エレーヌは匙を優雅に扱いながら答える。
「シャルロットと一緒に、王子たちを菜園に案内しますの」
マクシムは四阿の外を見た。リアーヌと王子たちは、サンドイッチでお腹を満たした後は庭中を駆け回って遊び始め、登りやすそうな林檎の木で賑やかに過ごしている。
林檎の木の一番高い枝のところにリアーヌが立っていたので、ぎょっとした。
エレーヌはマクシムの視線の先を見て、困ったように頬に手を添える。どうやら日常茶飯事らしい。
「まあシャルロット、お転婆は控えめにと言ってあったのに」
「むしろ弟たちがひ弱でお恥ずかしいですわ」
とエレイン王女。娘が勇ましく午餐服の袖をたくし上げるのを見て、オズワルドが慌てて止めた。
「エレイン! まさか木に登るつもりじゃあないだろうね」
「お父さま。エレインは弟達全員に木登りを授けてから嫁ぐつもりですの」
「ヴィルフリートに呆れられるよ」
「とんでもないことです、義父上」
皇太子はというと、表着を皇帝に預け、婚約者と同様腕まくりをしている、その瞳は少年らしい輝きに満ちていた。
「一緒に登ります。エレインにはいつも心地よく過ごしてほしい」
「まあうれしい」
二人はあっという間に四阿を去り、子供たちが集う林檎の木に向かっていく。オズワルドはこめかみを抑えて嘆いた。
「なんてことだ。やっと治ったはずのお転婆が、もっとひどくなってしまうなんて」
「いいじゃないか。ほほう、いい動きだ」
あっという間にエレインがリアーヌの横に登り、皇太子と王子たちが拍手をする。エレーヌは微笑んだ。皇太子は末の王子を肩車して、一番低い枝に登るのを手伝い始める。
「菜園は後日改めてご招待しますわ。リアーヌに招待状を書かせますわね」
「ありがとう、エリザベート」
「なら、予定が一つ空いたわけだな」
とヴェネディクトがほくそ笑む。何かを企んでいる時の表情だ。マクシムはエレーヌの手を握り長兄を睨む。
「そう警戒するなって」
と言って、皇帝は絹のリボンで束ねた手紙の束を差し出した。マクシムが受け取り、エレーヌはきょとんとそれを見下ろす。
「きょうだいからだ」
「……クリス姉上だけでは?」
「姉上はどうしても先に渡せと言ってきたから。姉上だけには勝てん。エリザベート」
「はい、陛下」
「そこは『はい、アン兄さま』と返してほしいところだが、まあ良いだろう。これは、二人に宛てた手紙だ。読んでくれ」
エレーヌは恐る恐る手紙の束を受け取る。ずしりと重い感触が伝わった。
「帝都を出立する日にきょうだい達から預かったものだ。確かに渡したぞ。……さて」
皇帝は優雅に腰を上げて、片目をつぶって見せた。
「私はシャルロットとダンスの約束が入っているので、失礼するよ」
オズワルドがそれに続くように立ち上がり、片手をひらりと振る。
「子ども達は見ているから。ゆっくりするといいよ」
あっという間に四阿で二人きりになり、エレーヌはマクシムを見上げる。マクシムは照れ臭さを紛らわすように空咳をした。
「……その、もう少し近くにいっても?」
と尋ねられ、エレーヌの頬が薔薇色に染まる。二人は同じ長椅子に座っているが、実はリアーヌ一人分の隙間が空いたままなのだ。
「はい。……どうぞいらしてください」
婚約者の了承を得て、マクシムがゆっくり距離を詰める。肩を寄せ、あらためて指先を絡めると、二人とも鼓動が速くなっていることがわかった。お互いの緊張が伝わり、小さく微笑み合う。
「まずはこの手紙から一緒に読みたいんだ」
マクシムが一通の封筒を差し出す。エレーヌはそれを受け取り、裏の署名を丁寧に確認した。
「第一大公女、クリスティーネさま……」
皇帝の姉にして、ツークフォーゲルの真の家長とも言うべき人物だ。にわかに緊張したエレーヌを抱き寄せるようにして、マクシムは手紙を開いた。




