(2)結婚式はいつ?
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四阿では、すすめるまでもなく、エレインとアルは隣同士についた。距離が近い。これが若さだろうか。二人はエレーヌと一つしか違わないけれど。
マクシムも似たような疲労感を覚えているらしく、どこか目が遠い。
オズワルドとヴェネディクトはちゃっかり黄李の蒸留酒を注ぎ合い、女王と婚約者を茶化した。
「エリザベート、たまには外交で失敗しておくのも勉強になるぞ」
「そうそう。マクシムくんも良い経験になったでしょ? 人生、筋書き通りにはなかなか行かないからね」
「……焚きつけましたね」
「昨日の今日で落ち着いてる方がおかしいでしょ。見てごらん、新聞」
と、オズワルドが三種類の新聞を大理石のテーブルに広げる。エレーヌとマクシムは二人でそれを覗き込んだ。
『奇跡の逆・求婚! 女王エリザベートが選んだ貴公子の正体!』
『大司教、賓客たちに問う! 二人の婚約を認めるか否か!』
『突撃! 超大物二人が語る! 電撃婚約の裏側!』
三つ目の挿絵には、仲良く肩を組む男性二人が描かれている。ご丁寧に国旗と冠が添えられていた。マクシムは乾いた眼差しを長兄とエルドラード王に向ける。
「いつのまに取材を受けたんですか?」
「オズと飲みに行ったら、記者がいてなぁ」
と、ヴェネディクトが蒸留酒を傾ける。オズワルドもうんうんと頷く。曰く、二人は夜会のあと、下町に繰り出したとか。
「昔と違って記者も良識的な人間が多くなったねえ。私らが話したとおりに載せてるよ」
と、オズワルド。エレーヌは顔を真っ赤に染めてナプキンを畳んだ。
「……お恥ずかしいですわ。こんなに大騒ぎになるなんて……」
「エレーヌ、俺は嬉しいよ」
「マクシムさま……」
二人が醸し出す雰囲気の甘さは、未来の皇太子夫婦の比ではない。ヴェネディクトとオズワルドはお互いに目配せをして肩をすくめた。
「ところで、お前たちは結婚式どうするんだ?」
皇帝が軽い調子で尋ねると、エレーヌとマクシムは顔を見合わせる。
「ええと……結婚のお許しは聖王庁の特使から頂いているのですが……」
「まだ、具体的には何も決めていません」
「ま、昨日の今日だからねえ。でもマクシムくん的には早くしたいんじゃない?」
「オズワルド陛下」
マクシムが目元を赤らめてオズワルドを睨む。
「わたくし、絶対に参加いたしますわ!」
「僕も参加します」
どこから聞いていたのか、対面に座っていたエレインとアルが力強く主張する。エレーヌは困ったように頬に手を添えた。
「ありがとう。でも……式はお金がかかるから」
「まあ、お姉さま! 結婚式にお金をかけないでどこにかけるんですか?!」
「そうね、例えば難民の生活支援金や戦災孤児の保護かしら……。帰還兵への補償もまだまだ足りていないし……」
エレインの嘆きに返し、エレーヌはどこまでも真面目に返した。可憐な女王の口から現実的すぎる意見が飛び出て、マクシム以外の全員が言葉を失った。
マクシムはというと、しっかりした金銭感覚を持った恋人に惚れ直していた。
「そうしたら、指輪の交換だけでもいいね」
「マクシムさま、そう言っていただけて嬉しいです」
このままでは世紀の結婚式が、指輪の交換だけという慎ましすぎる風景になってしまう。この二人は、自分達が及ぼす経済効果をいまいち理解していないのである。
「それはローゼンベルクあたりが許さないと思うぞー?」
「うちのメルバーンも頷かないね。絶対」
「お父さま達の言う通りですわ! わたくし、お姉さまの結婚式のお衣装を見るまでお嫁に行きたくありません! お揃いにしたいのです!」
「だそうです。叔父上、速やかに結婚式をしてください。僕らの愛の楽園が危機です」
四人がかりで詰め寄られ、エレーヌとマクシムは「前向きに検討する」と回答し、とりあえずは引き退らせることに成功した。




