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(5)エルドラード王の帰還「姫さま、あたしだけでも連れていっていただくことはできませんか?」

( 5 )


 舞踏会から二日後の朝。中央玄関前の馬車(くるま)寄せで、エレーヌはエルドラード王の一行の見送りに立った。

 エルドラード王が「二人で別れを惜しみたい」と望んだので、国王夫妻や内廷貴族は宮殿に戻っている。

 エルドラード王は馬車にはなかなか乗ろうとせず、水を何杯も所望した。エレーヌは青磁の水差しを持ち、求められるままに盃を満たす。エルドラード王は、滞在中もやたらと水か葡萄酒を飲んでいたので、喉が乾きやすい体質なのかもしれない。


「姫の女官や侍女には、ファラル語が堪能な者ばかり。心細い思いはさせまいぞ」

「……はい。陛下のご配慮に感謝いたします」


 エレーヌは従順に頷き、おぞましい視線から逃れるために瞼を伏せる。

 それからまた五杯の水を飲み干し、エルドラード王は帰国の途についた。エレーヌはグランコールの裾をつまんで、腰を落とす。馬車の行列が遠ざかってから、エレーヌはそっと息をついた。ずっと控えていたマノンが進み出る。


「姫さま、あたしだけでも連れていっていただくことはできませんか?」


 マノンの真心に、エレーヌの心はぐらついた。乳姉妹がいれば、どんなにか心強いだろう。けれど、甘えてはいけない。エレーヌは唇を噛んで首を振った。


「マノンの気持ちはうれしいわ。でも、それはできないの。そう決まっているの」

「ですが、それでは」

「王族同士の結婚ならば、当たり前よ。辛いことだけれど、ひどいことではないわ。……お母さまが生きていたなら、そう仰ったはず」


 侍女や女官は、全て嫁ぎ先で用意するのが当たり前だ。義姉もその習わしの通り、一人きりで元敵国に嫁いできた。きっと、自分もうまくやれる。そうしなければならない。


「……姫さま」

「さあ、お見送りは終わったわ。お兄さま方はきっと談話室でお待ちかねよ」


 エレーヌは晴れやかな笑顔を浮かべてみせた。

 エレーヌは今年の秋で十三歳になる。十六歳になるまで、あと三年と数ヶ月。少なくともその間は、エルドラード王と顔を合わせなくて済む。あの視線にさらされて、気味の悪い思いをしなくてもいい。結婚後について、エレーヌは考えないようにした。

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