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王妹よ、いばらの冠を抱け〜この初恋、諦めなくていいですか?〜  作者: 俤やえの
番 外 編 アイのかたち【 全15話 】
49/73

(1)戴冠外交

本編47話と最終話の間の話になります。

( 1 )


 女王の戴冠式を中心とした祝賀期間は一ヶ月半である。

 エレーヌは元々この祝賀期間を短くするつもりだった。祝賀には莫大な出費がかかるからである。即位して三年経つが、国庫は未だ厳しい状況のまま。

 今のファンデールに必要なのは贅沢ではなく倹約だ。祝賀期間は半月としたい。

 エレーヌはそう考え、国務諮問会議で説明した。なんと、八割が反対を示した。

 彼らは【戴冠外交】による経済活性化を図るべしと訴えたのだ。特に、ローゼンベルク財務長官と商館の主たちの熱意が凄まじかった。

『聖教の長女』かつ『絶対王政の象徴』ファンデールで、初の女王が誕生した。女王の治世がどうなるのか、今や聖教圏にとどまらず世界中が注目している。

 女王エリザベートは、戴冠に至るまで三つの功績を上げている。まず、女性相続を認めるサリカ法廃止、次に王国議会の実行、最後にキーシュ戦争終結である。

 旧制度を重んじる聖王庁は、当初女王の戴冠を渋っていた。しかし、皇帝ヴェネディクトから「彼女は長きに渡る戦争を終わりに導いた。神の祝福を授ければ、猊下の威光は国境と宗教を超えて伝わるでしょう」と口説かれてころりと手のひらを返したのだ。

 世界中が、ファンデールの一挙一動を見逃すまいとしている。

 今こそ好機。鉄は熱いうちに打て、とばかりにファンデール産業を売り出すべきだ。

 革命を経ても、王都ルヴェルが流行の中心という印象は廃れていない。あらゆる国に招待状を送り付け、外交の舞台を提供すれば必ず国益に繋がる。


 ――と、国務諮問会議のメンバーは女王をかき口説いた。

 エレーヌは最もなことだと考え直し、国と国の橋渡しになるべく祝賀期間を一ヶ月あまりとしたのである。


 まずは、エルドラード王女とイシュルバート皇太子のお見合いである。これは、誕生日の夜会の翌日に調整した。

 肖像画しか知らない相手同士、あらたまった場所で会っては気詰まり。

 麗らかな秋晴れの日に、王家の庭園で【偶然】に許嫁同士が顔を合わせる。女王が仲介者となり、二人を【自然に】散歩に誘い【何気なく】四阿のお茶会に招く。

 この筋書きは、皇帝、国王、女王で取り決めたものだ。

 エレーヌはこの縁組を良い印象に終わらすべく、緊張して臨んだ。

 しかし。

 

「昨夜はまるで夢のようでしたわ! 眠れなくてついつい物語を書いてしまいました!」


 と瞳を輝かせるのはエルドラード王女、ミラべリス・エレイン・デイ・エルドラン。分厚い羊皮紙の束を胸に抱えている。


「僕も忘れられません。帰ってすぐ絵に描いてしまいました」


 と、熱っぽく語りながら画板を取り出すのはイシュルバート皇太子、ヴィルフリート・アルトゥル・フォン・ツークフォーゲル。


「まあっ! 殿下の絵、わたくしのイメージそのものですわ」

「姫の文も、僕の理想そのものです」

「陛下、閣下、ごらんになって!」

「叔父上、叔母上、見てください!」


 二人が絵と文に起こしたのは、女王と大公の【逆求婚劇】である。しかも、ファンデールの市井小説に寄せた文体と、芸術の国カストーレ風の素晴らしい挿絵付き。


 エレーヌとマクシムは口元をひきつらせて固まった。代わりに応じたのは二人の父親である。


「これは素晴らしい! すぐに出版できそうだな」とエルドラード王オズワルド。

「絵も文章も美しい。歌劇オペラにもしよう」と皇帝ヴェネディクト。


 父親たちの提案に、王太子と姫は顔を輝かせて手を取り合った。


「本当ですの!? まあ、殿下、わたくし達の結婚式の演目が決まりましたわね!」

「今すぐエルドラードの脚本家を呼びましょう。音楽はイシュルバートに任せてください」

「わたくし、一年待っていられるかしら……」

「僕も、早く姫と結婚したい……」


 皇太子と姫は、熱く見つめ合う。本日初対面であるとは思えない親密な雰囲気である。想定外の事態と、あまりの展開の早さに、エレーヌは軽くめまいを覚えた。しかし、新米ではあるが女王として外交の舞台に立つのは初めてではない。


「……お二人にそのように言っていただけて、光栄ですわ」


 エレーヌは二人の世界を壊さないよう柔らかく声をかけた。マクシムも穏やかに微笑んで肯く。


「二人は芸術の好みが合うんだね」

「あっ、わたくしたちったら……」


 婚約者たちは手を繋ぎあったまま満面の笑顔を向ける。


お姉さま(マスール)と呼んでもよろしいですか? わたくしのことは是非エレインと呼び捨てで」

「僕もアルと呼んでください」


 若いふたりの勢いに、マクシムは微笑みながらも軽い頭痛を覚えた。エレーヌはこの二人から会話の主導権を譲ってもらうのは無理だと判断し、マクシムの腕に手を乗せる。


「もちろんよ。エレインにアル。……お茶はいかが?」

「よろしいんですの!?」

「では座って話しましょう!」


 実はこの二人、庭園で立ったまま盛り上がっていたのである。四阿でお茶会の準備をしている侍女と従僕は安堵のため息をついた。

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