巨人のドクター
私は150メートル級の女巨人の毛に固定された縄ばしごを登っていた。
「ドクター。あんたもイカれてるぜ」
命知らずの巨人調査隊に言われるのだからそうなのだろう。
私は縄ばしごを登りながら上にいる彼にこう言った。
「イカれてるのは世界ですよ」
世界はイカれてる。
私たち人類は20~150メートル級の巨人達に怯えながら、彼らの健康を保ち、繁殖を促し、時に討伐する。
2020年代突如現れた『彼ら』は人を避けて歩くほど気が優しく、震度2の地震が来たら号泣するほどに臆病だ
すぐに体調を崩すから健康診断は欠かせないし、知能指数は動物並で服を着るどころか繁殖の仕方も知らない個体も多いので性教育もしなくてなならない。一部の人間は彼らを『パンダ』と呼ぶ。
「むっ」
「ドクター!命綱はあるが気を付けろよ!」
「ああ」
風で縄ばしごが揺れる。
正直辛いが、この縄ばしごを彼らにかけた人たちの事を考えると文句など言えない。
彼らは眠らない。座らない。彼らは機械の類いを本能的に嫌う。
戦闘機やヘリで近づいては叩き落とされて何人が亡くなったのだろう?
「さて。私が付いていけるのはここまでだ。ドクター」
「感謝します」
「死ぬなよ」
「どうですかね?」
ヘッドライトのスイッチを入れ、入り口に頭を突っ込み、両手を拡げながら侵入した。
体内はヌメヌメとしていたが、幸いにも凹凸は沢山ある。
ロッククライミングの要領で昇っていく。
「ここか」
ここが最深部か。今から私は体ごとここに突っ込む。
30数年ぶりに私はここに帰ってきた。
「ただいま!」
全裸になって頭から突っ込んだ。
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「イカれてるよ。ドクター」
(……ドクターなのに巨人の種付け係に立候補するなんて)
ドクターは今頃気持ちよくなっているのだろうか?
(巨人と子作り……か)
繁殖に興味を持たない個体に人間の種を直接ぶちまける。
確かに人間の精子で巨人は受精可能だと報告されているが。
あいつらの種の保存の為にここまでする必要はあるのか?
「ドクター。確かにイカれてるのは世界の方かもな」
巨人の股から伸びた縄ばしごが風に揺れている。




