空っぽな大学生活
【第九章】 空っぽな大学生活
俺は大学生になろうとしていた。
振り返れば、俺は高一の三者面談で「大阪大学でも勿体無い」と担任に言わしめたほど抜きん出た学力を誇っていた。
確かに、データで見ればその時点の俺は大阪大学の必要学力を余裕を持って超えていた。だが、喜びはしなかった。
なぜなら、合格できる訳が無いからである。俺は努力をする覚悟が無かった。
阪大に受かるというのは、何も保証ではなく、このままの学力を維持すればの話である。俺は、高校3年間で学年4位を維持する自信など、初めから到底無かった。
2年生からは、9つあるうちの2クラス分の生徒のみが入れる進学クラスに自ら志願して入ったが、ここで大きな過ちを犯した。理系を選んでしまったのである。
特に将来の夢は無かったが、無かったからこそ、
「理系の方が就職しやすそう」
というイメージと、おそらく慢心によって理系を選んでしまった。
この失敗談はかなり話が逸れそうなので、飛ばそう。
結局、文理選択をミスって、3年生から文転し一学年360人中200が受かるレベルの大学に入学することになった。あえて人聞き良く言うと、西日本の4大私立大学の文系である。
正直言って楽勝だった。この大学群は、若干MARCHには劣るらしいが、俺の学力ならば早慶文系でも、ワンチャン受かっていたと思う。
大学受験は公立一校と私立一校2学部の合計三つしか受けていない程余裕な気持ちだった(公立はセンターの点が足りず落ちたが)。
よし、負け惜しみはこのくらいにしておこう。
なつみには大学受験の結果が出るシーズンに久々連絡が来て、どこに受かったか聞かれた。これは高校に受かった時もそうだった。付き合っていなくても、俺の進学先が気になっていた。
「秘密」
って言えばそこまでしつこく聞いてこなかったであろうが、べつに俺としては隠すほど恥ずかしい偏差値の学校ではなかったから、すぐに教えた。
「K大学!すごいじゃーん。おめでとう!」
なつみは嬉しそうだった。
なつみは、相手の将来の年収を気にするタイプなのかもしれない。
(そんなこと、べつに女として当然だと思うが)
「将来、旦那はお金持ちじゃなくても良いけど、平均より上の生活がしたいんだぁ」
こう教えてくれたこともあった。
女の子の願望にしては謙虚な方だと思う。
その点俺には自信があった。
まあ俺の高校出身なら、殆ど誰でも受かるような大学だけど、世間一般的に見ると高学歴と呼ばれる所らしい。
最も、大学進学の時点では俺となつみは付き合っていなかったし、お互いを将来のパートナーとして考えていた訳ではなかったが、将来のパートナーとして選択肢には入れてもらえていたのかも知れない。
ここで一旦、両者の結婚願望の話をしよう
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結婚については、俺たちが中学生の頃に話し合ったことがある。
その頃のなつみは本気だったのかどうか今となっては分からないが、少なくとも俺は結構本気だった。
俺は現実主義というか、合理主義というか、無謀なことは望まない。自分ができると思ったことは挑戦するし大抵できてしまうことが多い。
子供は欲しいが、二人でいいと考えていた。一人だと退屈だろうし、3人だと経済的に余裕は持てないのでは無いかと思う。
「二人がちょうど良いかなー」
「え?少なすぎ!4人くらい欲しいー」
「四人は無理やろ(笑)」
「えー何が無理なのー?」
(書いてて思った。大阪弁と標準語の混じった会話って、良いな)
なつみは現実など深く考えずに、希望をまっすぐ言ってくれた。
彼女には、嘘でも夢を見させてあげられるような男性がふさわしいのかも知れない。
なつみは子供が好きらしい。実際に彼女が専門学校に上がった時には、幼稚園のバイトをしていたらしい。
結婚は24でしたいと言っていた。いくらなんでも早すぎると思った。
「まあ〜27くらいじゃない?」
「えー遅すぎる!なんでよ〜」
「24は早すぎるって!(笑)」
「いいじゃん。できるよ〜」
(働き始めて2年目で結婚式の費用なんて絶対出せない。)
俺は現実を見て、理由は格好悪いから言わないが、自分ができる範囲のことを正直に言ってしまう。
これは両者が中学の頃の会話だが、なつみは絶対に結婚願望はあるタイプだった。
俺は特に子供が欲しいと思ったことは無いし、良い人がいればって程度だった。
なつみは俺にとって十分過ぎるほどに良い人だった。
俺は大学では経済学部に入ったが、経済学では、自分は究極に精緻に合理的な考えを持っていて、利益のみを追求することを前提として問題を考えるのが鉄則である。
俺は経済学部に入る前から”機会費用”とか”支払意志額”という概念を持って生活していたし、何も経済学が俺を合理的なつまらない人間に変えてしまった訳ではない。しかし、経済学を勉強して自分の中に眠るそんな性格を悪い意味で磨いてしまったと言われると、否定はできない。
ここからは俺の話になるが、俺は二十歳の頃、ひろゆきにハマっていた。今でこそ彼のyoutubeライブは1.5万人程人を集めるひろゆきブーム中だが、俺は1000人台、もしかしたら800人とかの頃から彼の放送を見ていたし、当時大学で経済学を学んでいた俺は彼の合理的な考えに心から感化されていた(今もそうだが)。
「日本では、まともな人ほど結婚しない」
彼がそう言った理由について少し解説したい、ところだが、だいぶ話が逸れそうなので超簡単に言う。
少子高齢化が止まることは不可能で、政治家は高齢者優遇の政策しか行わず、若者の負担が今後益々増加していくからだ。これは個人の予想等ではなく、事実である。
若者の草食化の理由は、経済的余裕の無さが大部分を占めていることは間違い無い。若者にお金が回って来ないから、恋愛も結婚も贅沢品なのである。
長ったらしい話は置いといて、要は政治家が高齢者から票を得たいが為に若者に貧しい生活を強いているのである。
政治家が高齢者に屈して国をより良くしていく努力をしていないのに、なぜ我々若者が国の為に身を削ってまで結婚し、子供を産まなければいけないんだろうか。
商売をしていて、金を払ってもらっていないのに商品を持って行かれているのと同じことである。
そんなに頭が良くなくても、子供を産むと損をすることは少し調べればわかることである。しかし何も考えていないDQNなどはすぐに結婚し、子供を産むのである。
これに関しては我々”まともな人間”からすると感謝しなければならないが。
何も国に恨みがあるから結婚し、子供を作ることは嫌だと行っている訳ではないが、単に損をすることは目に見えているから選択肢として消えてしまうのである。
まあ、実際に何も考えずに子供を産んでしまっても、日本は弱者にはなんだかんだ優しいから何とかなるらしいけどな。
俺の結婚観はこんな感じだ。20歳の時点でこんな考えを持っていた。
でも、万が一成功して大金持ちになったとしても結婚はしないかも知れない。
第一に子供を欲しいとあまり思わないし、一人の女性に縛られるより一生遊べる方が幸せじゃないのか?
そういう考えも確かに持っている。(今でも)
しかし俺はなつみと疎遠になっていた当時20歳、
「なつみと結婚するか、誰とも結婚しないかだ。」
という固い意志も同時に持っていた。
結婚したら損する。まともな考えで賢くて格好良いね。
いや、
「俺はなつみと一生一緒にいられるなら
喜んで馬鹿になりたい。喜んで損して貧乏になりたい」
疎遠になっても、連絡を半年間取っていなくても尚、なつみのことを忘れたことは一度も無かった。
俺は大学時代、なつみとずっと連絡を取っていなかった訳ではない。俺から連絡することは無かったが、いつもなつみが電話番号からメッセージを送ってきた。
「LINEのQR欲しい」と。
前にも書いたが、基本なつみは中学生からいつでも彼氏がいた印象だ。
一年、いや、もっと短い。俺の知る限り、半年間独り身で独り身で生活したことは無いだろう。
「もう懲りた〜。しばらくは彼氏いらない。」
そう言った1ヶ月後にはもう彼氏がいたりした。
それで、彼氏入るけれどもよっくんと話したいって時に一時的にLINEを欲しがって来ていた。
俺は連絡が来るたび嬉しかったが、数日話した後またLINEをブロック削除されるから悲しかった。
俺はなつみにとって結構都合の良い男だったと思う。
いつ来ても暖かく迎え入れるなんて、俺の価値も無くなってしまう。そう言った理由で俺はなつみには”あえて”冷たく対応することが多かった(電話以外)。
ここで留意していただきたいことは、あえて冷たい態度をとっていたことだ。
俺は将来なつみと結婚したかった。俺の優しさに価値を感じてほしかったのである。
気持ちが薄れていたから
冷たくしたのではなく、計算し尽くした結果冷たくしていたのである。
実際のやりとり
(電話が来たあと)
何?
LINE ID教えて
何で?
ごめん
番号も消すね
連絡してごめん
返信大丈夫!
(1週間後)
起きてる?
うん
LINEほしい
何で?
話したい
ここでいいよ
SMSって少しお金かかるからLINEがいい
(仕方ないか)
QR送信
とまあこんな感じだ。
これは俺が大学四年生のクリスマス前のことで、その後のLINEでなつみが彼氏の家で度々お泊まりをしていることを聞かされ悔しい気持ちを持ったものだ。
俺も見栄を張ってセフレがいるなんてことを言ったものだ。(実際にそれっぽい存在がいた)
なつみは何も自慢したいとか永遠の別れを言いに来たとかではなくて、本当に俺と話したかったらしい。
年明け前にまた彼氏に見つかるとまずいってことでLINEを消され、次にSMSが来たのは二月だった。東京での就職が決まったことは事前に伝えていたから、
「住む場所決まったの?」という話題になった。
次の章から東京編だ、と言いたいところだが、ここで一旦なつみの高校時代の話をしよう。
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