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それぞれの道へ

【第七章】 絶望と夢



そんな訳で、俺は高校生活開始2ヶ月で絶望の道へ進むことになった。夏休み前にサッカー部を辞めて、夏休み明けには他のクラスの人と軽く揉めたりして、停学になったこともあった。成績はかろうじて20位以内くらいは維持していたが、人間関係の構築を止め、バイトを始めた。

バイトをすると、周囲の人よりも経済的に優越感を持つことができるが、やはり部活を止めてしまうと高校生活というのはとても味気ないものになってしまうものだと思う。


「おもろい奴おらんもん。おもんない奴らの前でおもろいことやろうってならんわ。

中学の奴らってほんまおもろかったんやなー」


時々こんな愚痴を吐いたりして、文化祭以降俺は心を閉ざしてしまった。


俺が面白いやつかどうかについて少し、いや、しばらく語らせてくれ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第一に、中学の連中と高校の連中を比べると、やはり中学の連中の方が面白かったという感想は間違っていなかったと思う。

俺の通っていた中学校は通っていた小学校のすぐ隣にあるから、小学校の時のメンバーと殆ど変わらない。人数は確か俺の学年は123人くらいで、男女比率はちょうど50:50だった。

高校はその3倍も人がいたが、スター性のある面白い奴は俺の見る限り一人も居なかった。

「何様だよwお前はそんなにおもろい奴なのか?」って突っ込みたい気持ちは分かる。

少なくとも俺は客観的に面白いと言われていた同級生とは放課後に遊ぶくらいに仲が良かった。学年全体の前でオリジナルの漫才ができる奴(横田)とか、冗談でやる行動がぶっ飛んでる奴(野々村)とか、シンプルにバカで面白い奴(高岡)とか、大抵のクラスでも皆に面白いと言われていた奴とは仲が良かった。だから俺もそれなりに面白いと言って良いだろう(暴論)。

実際に学年の終わりにクラスの皆に一言メッセージを渡し合うみたいなイベントでは、「いつも面白かった!」みたいなことを書いてくれた割合が高かった。

中学卒業時点では俺は面白いか面白くないかでいうと、「面白い」分類に入っていたことは認めていただきたい。俺は主にどんな手法で周囲の笑いを取っていたのかというと、突然予想外のことをしたり言ったりすることによってだった。

俺の通っていた中学には、俺みたいな若干尖った笑いのセンスの奴が多かった印象だ。


俺は結末が予想できてしまうことが嫌いなのである。

映画にしても、漫画にしても、予想外のことが起きることに価値を求める。それは人間同士の会話でも、お笑いに関しても同様である。

ノリツッコミなんかも嫌いだ。相手のボケに対して自分もノって、「って何でやねん」と最後に締める一連の流れ。

これはお笑い芸人がテレビでやるのは良いとして、たまに一般人が乗ってくれることやツッコんでくれることを期待していきなりボケてくることがあるが、俺は気分が高揚でもしていない限りツッコまない。

「ハハハ...」

と苦笑いするだけで、流してしまう。

相手は残念がって「いやツッコめよ!」って言ってきたりするが、俺は理解できない。両者やその会話を聞いている第三者も結末が予想できる一連の流れをやったとして、何も面白くはないし、それでノリが悪いと言われるのは心外である。

「逆にあえてツッコまない方が意外性があるんじゃないか?」

そんな心理が俺の中で働いているのかも知れない。


しかし世の中には、「結末は予想できてしまうけれども、お笑いの伝統的な一連の流れが見たい」と思っている人の方が多数だし、その王道的手法の方がやる側も難易度は低い。

逆に誰も予想できないことをその場でひらめいて行動して見せるのはかなり難易度が高いし、機会も少ない。

俺は中学時代、その王道ではないやり方でたびたび笑いを取っていたが、舞台が高校になると、「王道の笑い」を求める人が圧倒的多数で、それをやる人達が評価されがちであることに気付いた。


そして俺は心を閉ざしていたから、それに対抗する訳でもなく、「面白え奴がいない」と愚痴っていただけのただのおもんない奴になっていた。


自分の価値観だけを信じて、更にそれすらも実行しなければ、周囲に評価されることなど無いのは当然である。

俺は周囲を面白く無いと評価していたが、客観的に見て面白くないのは自分なのである。そのことに気付くのには相当時間がかかった。

子供は面白くない。人生経験豊富な大人はもっと意外性を求めるだろうと信じていたが、大人でも王道的な簡単なお笑いに満足する人が多いことに大人になってから気付いたのである。


長々と書いたが、結論として、俺は「おもんない奴」と思ってくれて良い。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



高校一年生の頃は、そんな風に俺は前を向けずに、やがて冬を迎えた。冬の頃には、リアル彼女もいなく、なつみと付き合っていた記憶がある。なぜなら、こんなことを覚えているからである。


「高校生になったら、会えるかな?」


「うち、高校に入ったら、野球部のマネージャーになろうと思う。休みの日も忙しいし、会う余裕無いと思う。」


「いやいや、別に毎週って言ってる訳じゃ無いし、半年や一年に一回くらいならいけるやん(笑)」


「ううん。本当に忙しくなるから、そんな余裕無い。」


俺は察した。なつみは別れの理由を言うのが下手だった。いつも無理があるし、筋が通っていないし、説得力が微塵も無い。

「そっか。わかった。じゃあ、大学生になった時に会えたら良いな。」


こうして、俺らは突然別れた記憶があり、それまでは比較的上手くいっていたのに、それを機にしてその後付き合っても上手くいくことはなくなってしまった。


「あの時あんなに上手くいってたのに。なつみが別れようなんて言うから」


「ごめん。うちが悪かった。」


後々本人も後悔した旨のことを言っていた。



【第八章】 諦め



そんな訳で、俺が高二に上がる直前に、二人の距離は大きく離れてしまったことを覚えている。

俺が高二の冬、なつみには彼氏がいた。

俺は例の如く、なつみのSNSを覗くことがたまにあった。当時なつみはSNSをやっていたのか曖昧だが、なつみの彼氏のTwitterを発見したことを覚えている。

驚くことに、その男性は九州住みだった。そして更に、なつみと直接会ってデートをした時の様子をツイートしていたのである。記憶は定かではないが、両者浴衣姿で室内に寝転がっている写真をアップしていた。

珍しく俺は嫉妬したが、陰で見守っていた。べつに連絡しようとは思わなかったし、しても困るだけだろう。当時疎遠だった俺に、連絡する権利も無い。

ただただ毎日その男性のTwitterをチェックし、表情を変えずに眺めていた。


その男性の特徴は、ゴリゴリにマッチョで、眉毛が濃く、坊主だった。俺よりは年下だったが、俺よりも強いだろう。随分後になって知ったが、なつみは男らしい人が好きらしい。

「こういう人に惚れるんだ。中身が無さそうなのに。べつにイケメンでもないし。」

そういう感想を持った。それと同時に、

「イケメンじゃなくても良いんだ」

と、相手の男性に失礼ながら、将来会う時の不安が減った。



この頃、なつみとの復縁は半ば諦めていたが、将来必ず会える日はあると思っていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

余談

高校生になってからも俺はなつみに

「写真見たいー」とせがまれ、何度か写真を送ったことがある。

顔に自信が無いから、5回ほどは渋り、でも送らないと本当に冷められると思って結局は送っていた。

下を向いたりして誤魔化していたから、俺が格好良くないことはギリギリバレなかったと思う。

でも残念なことに「かっこいい」と言ってくれたことは殆どなかった。

お世辞でも言えないくらい、俺はカッコよくなかったんだろう。


俺が写真を送る頻度は半年に一回もなかったと思う。

俺は見栄を張って「ちょっとはモテる」と言っていたから、それを信じたなつみの中では、

(よっくんはきっと素敵な人)

というイメージが出来上がっていたと思う。

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