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不安

【第五章】 不安


【一年目】

現在の俺はつい昨日、なつみとのゴールを迎えた訳だが、少し時間を置くとどうしても相手の写真が見たくなる。10年間で29枚しか無かったなつみの写真の中に、彼女と俺のLINE履歴のスクショがあった。我ながらグッジョブだ。

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うん)9:20

いいー?)9:23

                                            9:25(今移動してるー

1分だけだよ?

すぐ終わるじゃん(笑)

かけるよー?)9:26

                                            9:26(うん

☎︎

19:34

長くなっちゃったね)9:46

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※スクショは2014年4月5日(土)に保存(やりとりが同日とは限らない)

おそらく初めて電話した時のやりとりだ。いや、1年も経っているから初めてとは限らないか。

なつみと電話するときは事前に決めていた時間よりもいつも長くなる。大抵の上手くいってるカップルでもそんなものだろう。

俺は初電話はひどく緊張していて、乗り気ではなかった。当時思春期ということもあり、好き同士の女の子とテキストではなく生の声で話すことなんて経験が無かったからだ。面白い話なんてできないし、自分の声にも自信が無い。

初めて電話した時の内容は覚えていないが、内容以外はよく覚えている。

第一に俺は電話を何度か先延ばしにしていた。相手の声を聞きたいという気持ちよりも、女の子と喋る自信の無さが圧勝してしまっていたからである。

そして俺は家族の目を気にしていた。母子家庭4人兄弟の一番下、俺以外は全員女の家庭で万が一恋人との電話など聞かれたら、からかわれるに違いない。上記スクショの「今移動してるー」とは、家の近所にある公園に移動しているという意味だ。誰にも聞かれない場所で電話をする、周囲には秘密の関係だった。

そのほかに覚えていることと言ったら、なつみの声が超可愛かったことだ。柔らかく女の子らしい、ゆったりふわっとした最高の声だった。俺は生涯なつみを超える可愛い声の持ち主に出会ったことはない。これは誇張ではなくカップルフィルターでもないと断言できる。とにかくなつみの声を聴いている時間は、その前に持っていた緊張や不安を忘れさせてくれるくらい、幸せなひとときだった。


さて、LINE履歴のスクショが残っているということはその当時のなつみのアイコンが見られるということだ。


YOU ARE

SPECIAL

TO ME


正方形のアイコンには、こう英語が書かれてあった

(あなたは私にとって特別な人だ)


これは俺に向けた表現でないことは一目で分かった。なぜなら、文字の後ろにある背景の写真には中学の制服を着た男女が映っていたからだ。男の方は卒業証書を持っていた。

なつみは先輩の卒業式に出席し、憧れの先輩とツーショット写真を撮ったのだということが容易に推測できた。

そう、初めて付き合った日から約一年経った4月、俺たちはすでに別れていたのだと思う。

べつになつみはその先輩と付き合っていたという訳ではないだろう。でも俺は彼女に対してアイコンについての説明を求めようとはしなかった。求めた記憶が無い。当時付き合っていなかったからこそ、説明させる権利など俺には無かったのだ。

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重要なことをしれっと書くが、俺らは10年という長い年月の中で付き合う・別れるを何度も繰り返していた。その回数は10回前後だと思う。それも大部分は中学の3年間だ。一番長く続いた期間すら覚えていないほど、それは複雑な関わり合いだった。

同じ人と短期間のうちに付き合ったり別れたりするなんて、一般常識から考えると理解不能だろう。俺は今、なつみとの関係を親しい人に話すときは

「10年間、連絡を取り続けてきた女の子がいる」

と話しており、決して

「10年間付き合う・別れるを繰り返してきた女の子がいる」

とは説明しない。

理解してもらえないからだ。いや、世界中の全てのカップルは、べつに二人以外の他人から理解してもらえるような関係である必要など全くないだろう。アジア人とアメリカ人、黒人と白人、人間とエルフ、人間と龍神族のカップルがいても、お互いがお互いを心から求め合うような関係ならば全く問題ないのである。

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話を戻そう。

俺たちは別れたからといって、完全に連絡手段を断ち切ることは無かった。断ち切ったつもりでいても、奇跡的に機種変更前のケータイに、電話番号やメールアドレスが残ってしまっていて、そこからやり直したこともあった。もしそんな奇跡が起きなかったら、俺たちは二度とお互いと話すことはできなかったろう。遠距離恋愛とは、それ程までに(もろ)く、不安定なのだ。


別れの理由はいくつかあったが


1.俺の愛情表現の少なさ、冷たい態度

2.なつみの浮気 (もちろんオフライン)

3.お互いの気持ちの離れ


などだ。1,2が多く、2は一度のみだと記憶している。

順に説明しよう。

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【1】

遠距離恋愛の難点は、話す話題に困ることである。二人が近くにいれば美味しいご飯屋さんの話とか、次行くデートの話で話題が尽きないが、高い頻度で連絡を取り合っていくとどうしても話題のストックが無くなっていく、という風に俺は感じていた。LINEはしても良いのだが、毎日1時間とか話すと、話題を考えるのが想像以上に大変になってくる。


「早く会いたいね」

「会ったら何がしたい?」


おそらく10年間で一番多く話した話題はこれだろう。


「手繋ぎたい」

「ぎゅーしたい」

「一緒に寝たい」

「えー、それどういう意味ー?」

「え、文字通り(笑)」


この話題を話すたびに大体いつも同じことを言い合う。その時は二人は距離なんか忘れて幸せな気持ちになれたし、なつみもスマホの向こうで笑顔になっていたに違いない。

でもこればかりだと変化が無いし、どこかつまらなくなる気がして、俺はLINEの頻度を二日に一回、三日に一回、険悪な関係の時は「1週間に一回にしよう」なんて言ってたりしていた。

なつみはLINEの頻度を下げられるたびに本気で悲しそうにしていた。それが別れにつながったりもしていた。


【2】

なつみの浮気についてだが、まず前提として、なつみはリアルでモテていた。はずだ。

・・・と、書いていて思い出したが、高校生の頃になつみは九州の人と遠距離恋愛していた。しかも実際にその人と何度か会っている。写真もTwitterに上がっていたから覚えている。俺よりも遠い人と、俺よりも関係が短いのに会っているのである。

俺はなつみのSNSをよく覗いていたから、本人から直接聞いたことは無いがこれは紛れもない事実なのである。彼女は俺以外ともネットで知り合い、恋愛したという事実の重要さになぜか今まで気付かなかった。まあ、このことは一旦いい。後の章でじっくり書く事としよう。

※ややこしくて申し訳ない。なつみが九州の人と付き合っていた時は丸々俺達は付き合っていなかったし、かなり疎遠だった。


遠距離恋愛のもう一つの難点として、相手が浮気していても気付けないということがある。不安がつきまとい、相手を信じたくても信じれなくなることはあるだろう。

俺が彼女のSNSをチェックしていたのは不安だからではなく、好奇心とか、好きだからとかそういった単純な理由なのだが、ある時彼女のTwitterのbio(プロフィール書くとこ)に

「since ○月×日〜

ゆうと♡」

と書かれているのを目にした。俺はたまに記憶力が良いから、多分名前もそのままだと思う。無論、俺の名前ではない。

それを見つけてすぐに俺はなつみに「浮気してるよね?」と聞いた。

なつみはなぜバレたか理解できなかったと思うが、素直に認め、謝った。でもその人と別れようとはしなかった。

俺はこういう時、相手を強く非難することはできない。自分に自信が無いから、浮気されたら俺のせいだと感じてしまう。

その時は別れることになったが、「リアルの男にはやはり及ばないんだ」とショックを受けた記憶がある。そしてなつみには「SNSを勝手に見ないで」と怒られた気がする。


【3】

お互いの気持ちの離れ。これは【1】に似ていて、突然冷たくなるのは俺だけではなかった。遠距離恋愛で近くにいる誰よりも相手が好きという状態をお互いが維持するなんて、相当難しいのかもしれない。



特に【1】に関して、なつみは本当に嫌がっていた。これは中学だけでなく、二人が高校生、更にその後になってからも、俺の態度が冷たいことは多くなっていた。

なつみはその対策に、ある時

「メールでやり取りしよう」

と言った。

俺がケータイを持ち始めた頃、既にLINEが世に普及していたことは言うまでもない。恋人、友達、家族とのメールでのやり取りはLINEの普及によって殆ど淘汰されたが、実はメールにはLINEには無い良さがある。


①一通一通の伝えたい内容をじっくり考えることができる。

メールはLINEほど気楽に送れるものではない。LINEは一言ずつ送ったりと、一回に送る内容の重みが小さい。相手の気持ちを想像しないまま送ってしまうことも俺は多々あった。

例えば、「うん」

たった二文字だけでも、相手からの返信待ちという状態を作ることができてしまう。

俺は不機嫌になるとこれを多用した。なつみはこれを嫌がっていた。それはそうだ。俺でも嫌だ。

しかしメールで送るとなれば、LINE程やり取りの頻度は高く無いから、一度に比較的多い量のことを相手に伝えようとする。時に短い日記レベルになることもある。

少なくとも、「うん」という何の感情も内容も無い返信が来るよりかは、少しでも相手の気持ちが伝わる点、LINEより優れていると言える。


②絵文字が使える

メールの記載内容がいくら多くても、文字しか無い真っ黒な画面だったら、どこかシリアスで圧迫感がある。そう相手が感じてしまうかも知れないと、送る前に考えることができる。これもメールの利点だ。

そこで俺たちはメールに多種多様な絵文字を散りばめた。今の10代が想像する”絵文字”は、間違いなくiPhone標準搭載の絵文字か、LINE専用の絵文字だろう。

しかしメールでしか使えない絵文字というものが、実はある。これは俺らの歳でギリギリ知っている人がいるかいないかというレベルだが、当時Webサイトからわざわざなつみとの為だけにダウンロードして、派手な動く絵文字をよく使っていた。

なつみの方も使っていたが、絵文字というものはネット上に無限に種類があり、どれが王道とかも無かった。俺たちはお互いが違ったテイストの絵文字を使って、当時では貴重な絵文字入りメールをそれぞれ受信して楽しんでいたのである。

「メールを送るなら絵文字を入れないといけない」

そう思えることで、自然と会話が明るくなることを、なつみは理解していた。


なつみは、喧嘩をしたときなどは、メールの他に

「一回電話しよう」

と言うことがあった。


電話をすればお互いに距離が縮まり、癒され、和やかな雰囲気になって必ず仲直りできるのである。なつみはこのことも理解していたが、時に俺は意地を張って

「しない」

「だめ」

などと言って断った。

こういう時、なつみは一番悲しんでいた。

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俺は中学の頃、リアルで彼女を作れるほどのスペックも度胸も持っていなかった。取り柄といえば勉強とスポーツがそこそこできただけで、やはり顔面偏差値が平均以下な俺を好きになる女子などいなかっただろう。若い中学生なんて、顔が良いだけでモテるし、逆に他がどれだけ揃っていても顔が平均に達していなければ彼女を作ることは不可能に近い。

俺にはなつみ以外に選択肢は無かったのだ。

しかしなつみは違った。

なつみはそれなりにモテていたように思う。

俺の中学でも陰でモテていた女子はいたが、その女子本人が恋愛に消極的だったりした。何が言いたいかというと、モテても恋愛したい女子と興味がない女子がいる。俺の思うに、なつみは前者だった。

モテていなくとも恋愛には積極的だったことは間違いないと思っている。


時間は流れ、俺が高一の終わり、なつみが中三の終わり頃、その時点では俺たちは付き合っていて、比較的円満だった。

よし、一旦次章では俺の高校入学の時の話をすることにしよう。

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