一目惚れ
【第三章】 初愛
「初恋」って言葉は誰もが知っていて、おそらく多くの人が経験済みだろう。俺の定義での恋とは、ある人に対して好きという感情が7割にでも達していたら、たとえ相手の眼中に自分など入っていなくてもそれは恋と呼んで良いと思う。なぜ7割かというと、ある人への感情を好き・どちらでもない・嫌いの三分割で数値化した時に7割の数値に達していたら、その感情は紛れも無く「好き」に該当するからだ。
恋とは定義が人によって違う。俺が恋に落ちるときはいつも一目惚れだった。これは今後、恋人との愛を深めるためには必ず直さないといけない俺の悪い癖だと言えよう。
俺の初恋は小学一年生の頃。小学校の入学時、同じ保育園出身の同級生は俺以外に二人のみだ。わんぱくな性格だった俺は、「ワーク」と呼ばれる教室と教室を繋ぐ通路をいつも走り回って遊んでいて、先生によく怒られる悪ガキだったが、その明るい性格ゆえに友達をすぐ作れるタイプだった。(あの頃は)
俺の通っていた小学校の教室の並ぶ空間はカタカナの「ヨ」のような形をしていて、つまり隣の教室が空間的に繋がっていて、一般的に想像される「廊下」は「ヨ」の縦線のさらに右側にあった。わんぱく少年の俺はそのワークを端から端の教室まで走り回っていた。明るい性格といえども人見知りはこの頃から変わらず、他の教室に入ることなんて滅多に無かったし、興味も無かった。
いつものようにワークを走り回っていたある日、自分のクラスの反対側の端のクラスが何やら騒がしかった。そこでその教室内を眺めると、イケメンの男の子が女子数人に足を掴まれて引き摺り回されていた光景を目にした。「羨ましいなー」なんて、その頃からM気質のあった俺は文字通り指を咥えて見ていた訳だが、ふと視線を上げてイケメン君の足を掴んでいる女の子達を見ると、それは揃いも揃って皆可愛い子ちゃんだった。その中でも一際顔の整った目のクリクリな女の子を見て、俺は瞬間的に恋に落ちた。ナンパなんて今でもやる度胸がない俺が反対側のクラスのその子に話しかけられるわけもなく、しかし2年生に上がった時には4分の1を引き当てて同じクラスになり、6年生の頃にはクラス内で時々喋るような関係性にもなり、結局その女の子の悪い性格を目の当たりにして自分で勝手に冷めちゃったんだけどね(笑)
まあ、そんな大して重要でもない俺の初恋の話でした。
さて、季節はなつみと付き合い始めて1ヶ月程経った頃に戻る。その頃にはお互い寝る前に「好きだよ」と言い合うようなラブラブな関係になっていた。
大阪人同士のカップルでも「好きだよ」と標準語で言い合うのは普通なのだろうか。大阪では普段、「だよ」なんて語は間違っても使うことは無い。口に出す習慣が無いからだ。でも愛を伝える文言は一字一句、全国で同じなのだろうか。当時はそんなことを考えていた。俺はなつみが東京住みであることを意識して、多分出会った当初からなつみとのLINEではほとんどの場合において標準語でやりとりしていた。この理由は今になっても自分でも分からないのだが、なつみへの気遣いなのだろうか。なつみはいつも
「大阪弁が良い〜。何で標準語に戻すの?」
と言って、指摘されて数分間だけ大阪弁で送られてくる俺からのメッセージに目をキラキラさせていた。(実際になつみの顔を見てはいないのだが)
同様に俺もなつみの標準語のメッセージを見て胸をキュンキュンさせていた。東京人女子にとっての大阪弁男子と、大阪人男子にとっての標準語女子。しかも恋人としてだ。お互いウィンウィンな関係と言えるだろう。多数のカップルは自分の住んでいる県内、もしくは距離が空いても地方という枠組みの中で成立する為、この新鮮で、大袈裟に言うと異世界の遠い人と話しているようなあの気分の高揚を経験すること無く一生を終えるのかと考えると涙が止まらない。
さておき、お互い直接会ったことも無いのに、好きという感情が遠すぎる二人の関係を支えていたことは奇跡に近いと思う。
これは恋ではなく、愛だ。両思いだから遠距離だったとしても愛なんだ。これが俺の初愛だった。
【第四章】 一目惚れ
出会った時の彼女のアイコンがどんなだったかは覚えていないが、俺はなつみと付き合う前後に彼女の写真を見せてもらった(時系列が曖昧で申し訳ない)。
ちなみに今現存している(俺のiPhoneに残っている)なつみの最も古い写真は、2014年4月1日の写真だ。これは後から計算して分かったことだが、俺となつみとの出会いは2012年〜2013年であることが判明している。2014年度は俺は中3で、なつみは中2なのである。
俺は最初AndroidのREGZAという機種を使っていたが、途中からスマホ内のあらゆるデータ(LINEアプリなども含む)を削除してもパズドラの新規アップデートができないほど容量が少なかった。そこで2013年の年末あたりにiPhone 5Sに機種変更し、その時に保存し始めた画像が画像フォルダ内に残っているのである。その前のなつみの写真はそのREGZAに入っていて、iPhoneには引き継げなかった。今でもそのスマホは電源はつかないとはいえ実家にあるから、解析すれば当時のいろいろな記録が出てくるかも!
俺のiPhoneに入っているなつみの最古の写真は、俺の所有する全ての写真の中でも4番目に古く、それだけ大切な写真なのである。
以下余談のため読み飛ばしOK
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俺の写真フォルダの古いランキング
1番・・・宇宙の写真(2013/12/28)
中学生の頃、眠れない夜はスマホで宇宙のことを調べて夢を膨らませていたものだ。今でもゆっくり解説とかはよく見る。
2番・・・当時の飼い猫の写真(2014/2/2)
名前はヒメといって、当時は既に家から脱走して行方知れずだった
3番・・・塾の模試の結果の写真(2014/3/22)
俺は中一の頃は偏差値でいうと53~54くらいだった。「三者面談でも平均よりちょっと上」と担任に言われて内心嬉しくなかった記憶がある。
中2に上がる前の2月くらいに親に「塾に行きたい」と申し出て、入塾したのである。これは入塾後から一年後の3月22日に撮った写真の結果だが、5教科で偏差値66を叩き出していた。しかしこの数値は入塾当初からほとんど変わっていない。つまり俺は入塾後2ヶ月で偏差値を12くらい上げたのである。4段階に分けられていた塾のクラスの一番下から入った俺は、初回の模試で早々に最上位クラスに食い込む順位を取り、「飛び級」をした。塾を出る直前の模試では97人中4位タイまで上り詰めることとなる。
これは小学生最後の運動会に並ぶ俺の武勇伝の一つである。この後も学歴自慢のような話が少し出てくるかもしれないが、どうか気を悪くしないでほしい。本当に賢い奴らに比べると俺なんか大した事ないと自分では評価している。
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なつみの写真の保存の許可は取っておらず、彼女のLINEアイコンをスクショした物や、彼女のTwitterアカウントに上げていた写真を保存していたものが多数である。当時からスマホをいじることが得意だった俺は、なつみの本名や誕生日でTwitterアカウントを見つけることなど容易いことだった。
好きな人のことを知りたいという気持ちは、到底抑えることなどできない。
もはや、ただのネット友達ではないのだ。勉強やパズドラ、遊戯王のデッキ構築以上に優先すべき作業なのであった。それ程までに俺はなつみを愛していた。
なつみの容姿についてだが、当時どう思っていたのかは少しだけ曖昧だ。何故なら今見返しても「ドンピシャだ」という感想しか出てこないからだ。でも、ポジティブな評価をしていたことは言うまでもない。
しかし、一目惚れというものは、少なくとも俺は、リアルでしか成立しないと思う。テレビの向こうにとんでもない美人が現れたとしても、惚れるという現象は起きないし、恋にも落ちない。
俺にとってなつみは唯一、一目惚れではなく、徐々に好きになっていった相手だったかもしれない。