五話
楽しんで読んでもらえてたらいいなぁと思うのです( *´艸`)
顔にあたる風から海の潮の匂いがする。胸いっぱいに吸い込むと、なんだか懐かしさがあり、不思議なものであった。
磯の香りと、カモメの鳴く声に私は空を見上げた。どこまでも広がる青い海は、今まで見たどの景色よりも壮大であり、彼方まで広がっていた。
「春だけれど、もう日差しが暑いですね。わぁぁぁ。すごい。綺麗。アシェル殿下! あ、見てください! 魚! 魚が跳ねました!」
その時、船が大きく波に揺られ、慌てるとアシェル殿下が支えてくれた。
「エレノア大丈夫ですか?」
『結構揺れるねぇ~。ふふふ。可愛い』
「はい。ありがとうございます。すみません。子どもみたいですね」
「ん? エレノアは初めての海でしょう? 私も実は子どもの頃に見た時には気持ちが高ぶりすぎて、海に向かって叫んだことがあります」
『飛び込んだこともあるよ~。海ってね、体が浮くんだよ。不思議だよねー。ふふふ』
「まぁ!」
水の中に沈むとばかり思っていたのに、浮くというのはどういうことなのだろうかと私は思いながらも、アシェル殿下につられて笑ってしまった。
小さな頃のアシェル殿下を想像して可愛らしいなと思った。
今、私達は聖地へと向かうために侍女と騎士とハリー様と共に船に揺られていた。
聖地にあるシュライン城は、海に浮かぶ島であり、諸国から皆自国の船で向かうこととなっている。
基本的に武器の持ち込みや、毒物の持ち込みは禁止されている。
しばらく海を走っていくと、他の船も見え始め、青い海に浮かぶ船が走るその光景は圧巻であり、波風を感じながら私はその光景を見つめていた。
「エレノア。あ、アゼビアの船と獣人の国の船も見えますよ」
『船にも個性がでるなぁ。アゼビアは煌びやかだし、獣人の国はなんとも勇ましいなぁ。むぅ。船で……勝ち負けではないんだけど、もうちょっとサラン王国も特徴的なものがあってもいいのにな』
私はそう言われてみてみれば確かに、各国の船には特徴があるなと思いながら自分の乗っている船を見つめた。
サラン王国らしく、細かい装飾などが丁寧になされ船の作りも丁寧である。
「私はこの船好きですよ。職人様方が丁寧に作った立派な船です」
そう伝えると、アシェル殿下は船を見回してにっと笑った。
「そうですね」
『そうだね。サラン王国にはサラン王国の職人の良い所がある。むぅ。すぐ僕は他の国に触発されちゃう。ありがとうエレノア』
私達は笑い合い、そして船で聖地へと向かったのであった。
青い海を進んでいった先に、その島は見えてきた。島には虹がかかり、その上空には美しい白い鳥たちが楽しそうに飛んでいるのが見えた。
船着き場には各国の船が次々についているようであった。
先に護衛の騎士達が降りるのが見えた。そこにはノア様の姿もあり、私が視線を向けると一瞬だけこちらにノア様が視線を向け微笑んだ。
『何があってもお守りする』
私は微笑みを返す。ノア様がいてくれると安心する。
「ノア殿も、騎士団の皆とうまくやっているようですね」
『よかった。ノア殿なら、エレノアを安心して任せられるしね。まぁ……ちょっと妬けるけど』
アシェル殿下の言葉に私はぎゅっとエスコートしてくれる手を握り腕に頭をもたげる。
「えぇ。嬉しいです」
私とノア様の関係はそのような関係ではないけれど、アシェル殿下がそう思ってくれるのは何となく嬉しいなんて、私は悪い女だろうか。
「っく……」
『あー。可愛い。はぁ……ノア殿のことを信じているよ』
私達は笑い合うとエスコートされながら聖地へと降りたのであった。
聖地の地面へと足が触れた瞬間、体が軽くなるような不思議な感覚を得て、私は驚くとアシェル殿下が言った。
「さぁ、ここからは聖地。決められた場所にしか行けないし、争いは絶対に起こしてはいけない。不思議な力のある土地ですからね」
『ここは不思議な空気だな』
私は同意するようにうなずく。
空気が違う。なんだか不思議なその感覚に出発前に精霊のエル様に言われた言葉を思い出した。
「エレノア。聖地では私も自由には動けない。力が仕えないわけではないが、聖地とはそういう物だと理解しておいてくれ」
『聖地とはそういう場所だ』
どういう意味なのだろうかと思っていたけれど、空気が違うのだ。
なんだか背筋が寒くなるというか、なんとなくここにいてはいけないような気がする感覚。
心地の良い場所ではないのが不思議であった。ただ、受け入れられていないというような感覚はしない。それが不思議であった。
私達はその後、シュライン城へと移動すると割り振られた部屋へと移動した。
可愛らしい部屋であり、私は美しく行き届いたその部屋に少しだけ驚いた。
この時期だけ侍女や執事が派遣されて清掃が行き届くのだというけれど、普通人が住んでいない場所というものはすぐに廃れていく。
けれど、ここは違うのだろう。
まるで時が止まっているかのような空気がする。
後、良く分からないけれど小さな小人のような人たちが聖地には住んでいるのか、たまに廊下を踊りながら走り抜けていくのが見えた。
彼らはレプラコーンと呼ばれており、関わらない限りは基本的には無害と言われているらしい。ただ、お菓子やケーキには目がないので、盗まれないように気を付けないといけないという。
最初は驚いたけれど、アシェル殿下曰く、気にしないほうがいいと言われた。
私は不思議だなと思いながら、部屋で侍女達に促されるままに湯あみを済ませて今日の夜開かれる舞踏会の準備を進めていく。
「エレノア様。今日も一段とお美しく仕上げてまいりたいと思います」
『他国の貴族の皆様にもエレノア様のお美しさを布教しなければ』
「エレノア様が最もお美しいでしょうね」
『可愛らしいエレノア様を皆様に見ていただくのが楽しみだわぁ~』
「今回のドレスはアシェル殿下とお揃いでございますから、楽しみですね」
『はぁぁぁ。我が王国の美男美女。腕が鳴るわぁぁ~』
私は侍女達の言葉に、微笑みながら支度を手伝ってもらったのであった。
今回のドレスは星をちりばめたかのように美しく煌びやかなものであり、ふわりと広がるスカートはダンスをすれば美しく花開く。
アシェル殿下と一緒に決めたこのドレスは本当に美しい。
いよいよ他国を交えた初の舞踏会である。
私は、ハリー様と事前に打ち合わせたことを思い出しながら、この国交会を絶対に無事に終わらせて見せると意気込んだのであった。
小説書きながら、毎日にやにやしちゃうのです。もっと書きたいけれど時間が足りない。
神様どうか、精神と時の部屋をください(*´▽`*)
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