四話
エレノアちゃん。一話のころと比べると、本当に成長をしている(●´ω`●)
国交会に出立する日の前日、私はやっと準備が落ち着き、少しだけゆっくりとする時間を持つことが出来た。
最近は勉強が忙しかった為、ほとんどゆっくりする時間がなかったので本当に久しぶりであった。
庭へと出ると、すぐに心地の良い風が吹き、噴水の所にエル様が座っていた。
「エレノア」
『明日出立か』
エル様に手招きをされて、私はエル様の元へと行く。するとエル様は私の頭を優しく撫でると、髪に指を通した。
最近、エル様が私にためらいなく触れて、まるで小動物を愛でるような視線を向けられているような気がする。
「エレノア。この世界には無数の神々が存在する。そして神の数だけ人々が崇拝する宗教がある」
『精霊と神は違う』
「はい。エル様は神様を見たことがあるのですか?」
「神を好む精霊もいれば、好まぬ精霊もいる。まぁ神とは存在自体が未知なもの。精霊にもその根幹は分からない。だからこそ、気をつけよ」
『何もないといいが』
強い風が吹き抜けていく。
「危ないと思ったらすぐに呼ぶのだ。神々の島であろうと、私はエレノアの傍にいる」
『神々の島だ。私の力も制限されるだろうが、それでも、必ず力になろう』
アシェル殿下と共に参加する国交会という場。そんな場にエル様の言葉によって私は不安を少し抱く。
何もないことが一番である。けれど、何があるのかは分からない。
「頑張りますね。でもきっと大丈夫。何も起こりませんよ」
無事に終えられるはずだ。そう思ったのだけれど、どこか、一抹の不安がよぎったのであった。
私はその後部屋へと帰り、不安を解消するように歴史書を開いた。
「神々って……本当にたくさんいるのね」
サラン王国にも神殿は存在する。ただし、あくまでも心のよりどころとして神は存在する認識であった。
ぺらぺらと本をめくっていると、鈴の音が聞こえ、私はハッと顔をあげた。
「エレノア! ふふ。来ちゃった! お土産もあるのよ! これあげる!」
くるくると宙を舞って現れたユグドラシル様に私は苦笑を浮かべた。
手渡されたのは小さな小袋であり、開けてみると不思議な木の実がたくさん入っていた。
「これは何です?」
「ん? 今度神々の島に行くんでしょう? だから、手土産」
『神々の島で何があるか分からないから、それちゃんと肌身離さず持っておくのよ』
「手土産ですか? その、何に使えば?」
木の実を眺めてみても光沢があるだけで別段おかしなところはない普通の木の実である。
「人間には分からないでしょうけれど、それ人間以外には結構有用的なものだから、持っておいて損はないわよ」
『私ってやっさしぃ~。神々の島にはあんまり行きたくないから、これを持っていてくれると私も安心だわ』
私は一体何なのだろうかと思いながらも、頷き、それをありがたくいただいたのであった。
長ひもを通して首から下げれるようにし、お守り代わりに持っていこうと私は思った。
ちなみにサラン王国へ来る前には事前連絡をという話はあったのだけれど、どうにも約束事に縛られるのが嫌なのか、結局ユグドラシル様は内緒と言って、私の元へと現れる。
ただ、不法侵入には当たるので、それならばと、結局サラン王国側で魔術具を開発する流れとなりユグドラシル様が来たら知らせの鈴の音がなるようになったのである。
それは自動的に入国時間と退国時間とが記録されるものであり、魔術塔に所属するダミアン様とオーフェン様とが頭を悩ませながら作り上げたものであった。
なんでも妖精の粉に反応しているシステムとのことであり、作るにあたってダミアン様とオーフェン様は大きな隈を作っていた。
「入国許可取ってくれれば寝られるのに」
「化粧ノリが悪すぎるわ」
二人が心の声も聞こえないほどに、ぶつぶつと文句を言ってはいたけれど、作り上げた二人はユグドラシル様が来て勝手に記録されるのが成功すると、大喜びしていた。
ただ、それをいいことにユグドラシル様はちょくちょく私の部屋へと訪れるようになったので、アシェル殿下は何とも言えない表情を浮かべていた。
そして最近ユグドラシル様が妖精の国に私専用の部屋を作ったという話を聞いてから、アシェル殿下は来れる時には、ユグドラシル様が訪れた時には私の部屋へとやってくるようになった。
ユグドラシル様はそれに少し不満げである。
「今日はアシェルはいないのね。うふふ。ねぇエレノア? 妖精の国に遊びに行きましょ!」
『エレノアと二人っきりがいいのに! さぁ、いないうちに妖精の国に行きましょ!』
最近やたらと妖精の国へと招待をしようとしてきていた。
何故かなと思いながら、私はユグドラシル様の頭を撫でた。
「国交会に行かないといけないので、今はいけないんです」
そう伝えるとユグドラシル様は大きくため息をついた。
「なんで? 私エレノアと遊びたいことたくさんあるのに! 国交会なんて行くべきじゃないわ。妖精は神様を信仰しないの」
『神々の島なんて。ふん! そんなものより妖精の国の方がいいわ』
神様を信仰しないという言葉に、私は首を傾げた。
「妖精の国には宗教的なものはないのですか?」
「ないわ。妖精にとっては女王が唯一大切な存在。この世界の一部は確かに神が作ったのでしょうけれど、一部は女王が作ったものだから」
『妖精は女王がナンバーワンなのよ』
なるほどなと思っていると、部屋をノックする音が聞こえた。
それにユグドラシル様は舌を出して大きくため息をついた。
現れたのはアシェル殿下であり、ユグドラシル様はアシェル殿下の元へと飛んでいくと舌を突き出しながら言った。
「もう! なんで来るの!? 私はエレノアと遊びたいのに!」
『っち。また妖精の国に連れて行くのに失敗したわ』
アシェル殿下はユグドラシル様に向かって一礼をした後に、後ろから連れてきた侍女に命じて机の上にケーキやクッキーや果物のジュースを並べていく。
「ほわぁぁぁ」
『キラキラしているわ! 宝石みたい!』
「ユグドラシル様。ぜひ私も仲間に入れてください。こうやってユグドラシル様の好きそうなものも準備したのですよ?」
『むぅ。魂胆はお見通しだ! エレノアを妖精の国に連れて行こうとしているんでしょ!? だめだよ! 行くとしたら僕も一緒だよ!』
「もう、しょうがないわね」
『くぅぅ。小癪な手を使ってぇ!』
アシェル殿下とユグドラシル様の攻防を聞きながら私は笑みを浮かべた。
三人で仲良くお茶会が出来るのは私にとっては楽しい時間だ。
「あ、そうだ。お菓子に免じていいことを教えてあげる」
『その代わりまたお菓子準備しなさいよ』
クッキーを大きな口で食べていくユグドラシル様を私とアシェル殿下は見つめて首を傾げた。
なんだろうか。
「お母様が最近地脈がざわめいているって言っていたわ」
『噴火しなければいいけれどね』
一体なんだろうと思うと、アシェル殿下が尋ねた。
「ありがとうございます。地脈ですか……どういう意味かわかりませんか?」
『どういう意味だ?』
ユグドラシル様はオレンジジュースを飲みながら、首を横に振った。
「火山が活発になるかもねとも言っていたいわ。気を付けておくことにこしたことはないわ」
『まぁ思い当たる節はあるけれど……確証がないから言えないわねー』
「良かったです。わかりました。心に止めておきますね」
『忠告ありがたいな』
「うふふ。お礼にエレノア連れて行ってもいい?」
『だめかしら?』
「だめですね。その代わりお土産のお菓子も準備しますね」
『だめだよー! もう! 何言っているの!? だめだよ』
私は笑いを堪えきれずに、くすくすと笑ってしまう。
「ふふっ。アシェル殿下もユグドラシル様も、仲良しですねぇ」
笑った私を見て、アシェル殿下もユグドラシル様も笑みを浮かべた。
『『可愛い~。癒される~』』
心の声がぴたりと重なり、私はまた笑ってしまう。
最近息があって来た二人。そんな二人を見ていると先ほど抱いた不安など消えていくようであった。
2巻の表紙、抱きしめられているエレノアちゃんが可愛すぎてキュンってなりました!
Shabon先生のイラスト神ですよ(*´ω`*)