三話
お兄ちゃん……
「エレノア様」
『なんだか新鮮だな』
顔をあげて、声をかけてくれたノア様の方へと私は視線を向ける。
そこに立っているノア様は現在サラン王国の騎士団の服を纏っている。とても似合っていて、私はその姿を見る度に、ノア様の居場所がサラン王国にあるように思えて、嬉しくなってしまう。
あれからノア様は、サラン王国の騎士団に所属をするために試験を受け、その後に、私の専属の騎士へと配属が決まったのであった。
基本的に他の騎士と共に早朝などに訓練を行い、その後の時間は私と行動を共にするようになったのである。
以前よりも一緒にいる時間が増え、今日のように図書館で勉強する時にもついていてくれる。
アシェル殿下は以前から私が場内でも護衛騎士をつけた方がいいと考えていてくれたようで、信頼できる人をと思っていてくれたようだった。そして騎士団へと正式に所属した後に、私の護衛騎士にとノア様を任命したのであった。
最初こそ驚いたけれど、ノア様ならば心強かった。
騎士達を疑っているわけではないけれど、これまで出会ってきた騎士の中には私に対して邪な考えを持つ人もいたので、専属騎士を推薦されたとしても受け入れるのは難しかったと思う。
けれど、ノア様ならば別である。
常に私とアシェル殿下の最善を考えてくれるノア様ならば、信頼できる。
そして、今日のように図書館で過ごす時間は、一緒に本を探してくれたりおすすめし合ったりと和やかな時間が流れていく。
「ノア様。こうやって過ごしていると、なんだか不思議な気分ですね」
私がそう伝えると、ノア様も微笑んでうなずいた。
「そうですね。……何故か、エレノア様とこうやって過ごしていると、まるでパズルのピースがはまったかのように、自分の居場所が出来たような、そのように感じるんです」
『上下関係は出来てしまったが、それでも、こうやって友と一緒に過ごせることが嬉しい』
護衛騎士という立場が出来てから、ノア様は私に対してとても丁寧に接するようになった。言葉遣いや所作、一つ一つが以前とは違う。
少し寂しいような気もするけれど、それでも、私達は友達だと、お互いがそう思い合えているのは嬉しかった。
「そう思ってもらえて嬉しいです」
そして何より、ノア様自身も、サラン王国に居場所を見つけてくれたようで嬉しい。最近では、騎士団の人達とも夜は一緒にご飯を食べに行くことが多くなってきたのだと言い、話を聞くたびに、胸の中が温かくなる。
「そういえば、この前、騎士団の皆で街の食堂に行ったのですが、そこではエレノア様の話でもちきりでしたよ」
『皆、エレノア様に興味津々だからな。まぁ、不埒な考えを持つ奴は訓練と称して性根を叩きなおしてやっているがな』
「そうなのですか? ふふ。一体何を話されているのか」
「エレノア様の図書館での様子も聞かれたので、最近読まれてた神々の神話の本を皆にもお勧めしておきました」
『全十五巻の分厚い本を前に、皆の顔が引きつっていたのは笑えたな』
「まぁ」
静かな図書館の中での私たちの会話は終始和やかなものである。ノア様の心の声は、静かで、だからこそ一緒にしても心地よいのだ。
そして今度の国交会にもノア様にも同行をしてもらう予定である。基本的には国交会の間は他の騎士と共に護衛として行動するので一緒に過ごす時間は少ないけれど、それでもノア様がいるということは心強く感じたのであった。
「今度の国交会でも、ノア様もいてくれると思うと、心強いです」
「私の出身国は、そちらの国交会には参加していなかったので、私も初めての場で緊張しますがしっかりとお守りいたします」
『竜王国は竜を信仰する国であり、他の国とは一線を引いていたからな。だが、何があってもエレノア様はお守りする』
私達は微笑み合い、和やかである。なんだか最近、ノア様がお兄様のようなそのような感覚に陥ることがある。
『友であり、最近エレノア様が妹のような存在に感じる……』
同じようなことをノア様が考えていて、私はふっと笑ってしまったのであった。
ノア様も大好きです(*´▽`*)
お兄ちゃんって言って両手を広げたらエレノアなら抱きとめられるだろうけれど、私が言ったらたぶん「へぶしっ!」って、翼で跳ね飛ばされそうな気がします(/ω\)