八話 朝の散歩
私は朝目覚めると、侍女からアシェル殿下が昼に話をしたいと言うことでそのまま城に留まることとなった。
最初ドレスはどうするのだろうと思ってたい私であったが、アシェル殿下が手配し、すでに何着ものドレスが準備されており、私は朝から驚くのであった。
侍女に手伝ってもらい、今日は大人しい印象の緑のドレスを身に着ける。
いつもは両親から自分の好みと言うよりも、私の印象に合うようなドレスばかりを強要されていたので、可愛らしいデザインのそのドレスに、私は気分が上がる。
髪の毛や化粧も、いつもの派手なものから、あっさりとしたものに変えられ、私は自分の姿にほっと息をついた。
「お嬢様はこうしたメイクも似合いますね」
『かっわいいぃー。これは殿下も惚れ直すわー』
侍女にそう声をかけられ、私は鏡に映る自分を角度を変えて見つめながら、頬に手を当てた。
「似合いますか?」
思わずそう尋ねてしまう。
すると侍女は優しげに微笑むと言った。
「はい。とてもお似合いです」
『エレノア様は磨きが合いがあるわぁ。もっともっと可愛くも出来るし美しくも出来る! あぁ、この方が王宮にいらっしゃる日が待ち遠しいわぁ』
心の中でうきうきと楽しそうな侍女に、エレノアは微笑みを返し、それから城の使用人達はとても優しい人ばかりだなと思った。
執事も、侍女も、皆がエレノアのことを好印象で迎えてくれる。
男性になるとやはりそういう目で見てくるものもいるが、それでも実家よりははるかにましであった。
エレノアは朝食を済ませた後に庭に散策に出たのだが、そこでふと気になる声が聞えた。
『あれが、公爵家の妖艶姫か。ふん。まぁたしかにそれなりではあるが、あれが第一王子の婚約者か』
どこからか自分を眺めているであろう声の主は、一体何者だろうかと思いながら、私は庭を歩いていく。
『アシェル王子は完璧だともてはやされているが、婚約者はどうか。うちの国としては、利用できればそれでいいが、ここで一度接触しておくべきか……』
妃候補となるということは、なるほどこういうこともこれからあるのだなと思いながらも、私はその声に少しばかり好感を抱いていた。
声には、政治的な利用という点を重視しており、自分自身をいやらしい視線で見つめてこないことがありがたい。
『あー。だが、どうするかな。第二王子派の過激派が第一王子暗殺を企てていると言う話もあると聞くしな』
その言葉に、私は足を止めた。
暗殺?
アシェル殿下が?
私は静かに歩いていた方向を変えると、声がする方へと足を向ける。
あくまでも散歩でこちらへと興味移り、偶然にという雰囲気をかもしながら。
『ん? こっちに来る……か。うん、まぁ笑顔で好印象でも残しておくか』
庭の生垣を曲がり、私はそこにいた人と目があった。
美しい金色の髪に、澄んだ空色の瞳。
隣国アゼビアの王子は、額に王家特有の入れ墨をいれる慣習となっており、私はすぐに頭を下げ、一礼をする。
「ごきげんよう。アゼビア王国第四王子殿下にご挨拶申し上げます」
なるほど、アゼビア王国の王子だったかと私は思いながら、頭の中で名前はと思い出す。
ジークフリード・リーゼ・アゼビア。アゼビアの第四王子にして、いずれは国の外交全般を任せられるであろうと言われている男である。
妃教育で隣国アゼビアの情報についても学ぶことがあり、現在は両国の友好関係を築いていくために、我が国へと訪問していると聞いていたが、ここで会うとは思わなかった。
昨日のこともあったからこそ、後ろで控えている護衛が緊張した面持ちに代わる。
『おいおいおい。やめてくれよー』
『隣国の王子が何でここにいるんだよー』
情けないその声に、私は笑いそうになるのを堪えながら、ジークフリートの返事を待つのであった。
読んでくださる皆さまに感謝です!
感想コメントありがとうございます!返信は執筆を優先してるので出来ませんが、読ませていただき、豆腐メンタルの作者はとてもとてもありがたく思っております!
ぼん、きゅっ、ぼーーーーーん(●´∀`●)